人を欺罔して財物を騙取したる者は十年以下の懲罰に処す(刑法二四六条)。これが刑法における詐欺の定義だが、簡単に言えば「でっち上げた嘘で、人から現金や土地・家屋などを騙し取る」。それが詐欺だということになる。
古今東西、詐欺の世界では「ここだけの話だから」「ぜったいに儲かる」という常套句が存在する。冷静になれば「なんであんなイカガワシイ話に引っかかったんだろう」と不思議に思うのだが、相手は手練手管を駆使し、騙そうとする。そんな「悪徳商法」は令和の現代でも、増加の一途をたどっている。
悪徳商法に手を染めてきた連中は、決まってこう言う。「一度騙されたヤツは何度でも騙される。それが業界のセオリーだ」と…。
数ある悪徳商法の中で、最もポピュラーな「マルチ商法」は、正式名称「MLM=マルチレベルマーケティング」。平たく言えば、会員になって特定の商品を購入し、新たな顧客を開拓すればバックマージンが得られる、というものだ。つまり、自分の勧誘した「子」が新たに誰かを勧誘すれば、「親」である自分にマージンが入る。ところが、ビジネスの性質上、近年は強引な勧誘や商品の虚偽説明が横行。社会問題化したことで、当局の目は厳しくなった。
そんなことから近年目立つようになってきたのが、商品を売るのではなく、ビジネススクールなどの名目でセミナーを開き、高額な入会金をむしり取る、という手法だ。
その「アポ取り」にマッチングアプリを利用して若者を集め、大金を巻き上げていたのが、今年7月11日に特定商取引法違反(業務禁止命令違反)の疑いで警視庁生活経済課に逮捕された「プレジデント」の幹部4人だ。
幹部らはアプリで知り合った大学生などの若者らを喫茶店などに呼び出しては「今の生活を変えたくない?」「スクールでバイナリーオプション(為替相場の変動を予想する投資)を学んで稼げるよ」などと長時間にわたって勧誘。その後、事務所へ引っ張っていくと「現状維持は衰退の始まりだよ」「月収100万円稼げないわけがない」とマルチの常套句を並べる。
そんな有無を言わさぬ状況の中で、入会金42万9000円をその場で消費者金融から借り入れさせるのだ。結果、2019年10月からの約4年間で、42都道府県の約2000人からおよそ8億5000万円を騙し取ったとされる。
巧みな術にハマッた若者の中には、新型コロナウイルス禍で友達との関係が希薄になったり、在宅時間が増えたことで家族との関係に悩んでいた、というケースがあった。
基本的に詐欺師は聞き上手であり、最初はみんな優しい。そしていつの時代も「必要以上の苦労はしたくない」「効率よく働きたい」という人は一定数、存在する。そのため、友人知人をセミナーへ勧誘すれば高額報酬が得られる、との話に魅力を感じて、マルチメンバーの間に漂う、ある種独特の結束力に自分の会社にはないものを感じる。そして気が付くと洗脳されていた、という事案が少なくないのだ。
温室育ちの草食系男子を騙すのは、赤子の手をひねるようなもの。今回逮捕された「プレジデント」元社長は取り調べに対し、
「万が一、摘発されたら会社に何億円とかの罰金命令が出るかもしれないので、(摘発されそうになったら)口座の金を抜いてすっからかんにして会社を潰そう、と思った」
「個人への罰金は大した額ではないから、バンバン売って(入会させてバレたら罰金を払えばいい」
そんな供述をしているというが、今後も当局による厳しい追及が行われる。
(丑嶋一平)