3年前に発生した広域強盗事件では、「ルフィ」を名乗っていた今村磨人被告(40)が強盗致死罪などの容疑で起訴された。その後も「ジョジョ」「織田信長」「夏目漱石」といった指示役の存在が浮上したが、今度は人気芸能人を騙る新たな“黒幕”が─。
「東京地裁では多くの詐欺事件、詐欺未遂事件の公判が行われていますが、最近よく耳にするのが『キムラタクヤ』を名乗る指示役。高齢者から多額の現金を騙し取る詐欺グループの一員と見られています」
こう語る社会部記者の手引きで5月某日、詐欺未遂事件の裁判を傍聴した─。
事件が起きたのは今年2月。東京都在住の80代の女性に、「息子」を名乗る男からこんな電話が入った。
「トイレに会社の金、250万円を置き忘れた。このままではクビになってしまう」
古典的とも言えるオレオレ詐欺の手口だが、被害女性はすっかり信じ込んで近くの信用金庫へ。現金を引き出そうとしたところ、詐欺を疑った職員が110番通報。詐欺は未遂に終わったが、この事件に「受け子」として関与していたのが、この裁判の被告である飲食店従業員のA(20代)だ。数年前からキャバクラ通いや車の購入などで多額の借金を背負い、勤め先の同僚から「高額収入」を謳うアルバイトを紹介される。勧められるままにダウンロードした“怪しいアプリ”を介して接触してきたのが「キムラタクヤ」だった。
「A被告は長野県在住ですが、この『キムラタクヤ』から『1回10万円以上になる』とそそのかされて上京。被害女性の自宅付近で待機し、現金を受け取る段取りだったようですが、警察の動きを察知した別の指示役から『私服警官がいるぞ。その場を離れろ』とメッセージが入り、最寄り駅へ移動。そこで警戒にあたっていた警官に職務質問を受けて逮捕に至ったのです」(前出・社会部記者)
逮捕から約3カ月、白いトレーナー姿で現れたA被告は、何度も謝罪の言葉を口にしたが、
「未遂で終わってよかったと思っています」
と述べると、検察官はこう異論を述べた。
「お金を失わなかったから被害はなかった? 被害女性の気持ちを考えたことがありますか? 犯罪グループに自宅を知られ、あなたのような男が家の前まで来ていたんですよ。今後どんな思いで生活していくと思っているんですか?」
裁判にはA被告と同居していた父親が長野から上京し、情状証人として出廷。今後の監督と指導を誓ったが、検察側は「懲役4年」を求刑して閉廷となった。
「A被告に前科前歴はなく更生の意志を示していましたが、実刑判決の可能性は高い」(前出・社会部記者)
気になるのは事件の黒幕「キムラタクヤ」の正体。詐欺犯罪に詳しいフリーライターの根本直樹氏は言う。
「指示役のアカウント名を決めるのは背後にいる犯罪組織のリーダー。その年齢層は30代後半から50代が中心で、『ヤザワ』や『ケイスケ・クワタ』といった世代を反映したものが多い。最近では闇バイトの応募者が恐怖感を抱かないよう、『パンダ』や『さんま』など愛らしいネーミングの指示役が増えていると聞きます」
芸能人の名を騙って悪事を働く不埒な犯罪の根絶を願ってやまない。