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記事全文を読む→佐藤誠「取調室の裏側」〈事件解決の裏に「刑事メシ」あり。最後の晩餐に選ぶ思い出の味は〉
昨年の大みそかにドラマ「孤独のグルメ」が放送された。輸入雑貨商を営む井之頭五郎が営業先で見つけた食事処に立ち寄り、至福の時間を過ごす物語だ。
刑事も似たようなもので、仕事中は食べること以外に楽しみがない。昼飯で外れを引かないためには、捜査と同じで旨いメシ屋は足で探すのが鉄則だ。
凶悪事件が発生すると、管轄する所轄署に捜査本部が立ち上がり、一課の刑事は出向いて詰めることになる。所轄の捜査員とペアを組むのだが、俺も所轄時代はプライドの高い一課の刑事に気を遣ったものだ。
そこで所轄署には「刑事メシリスト」が用意されていることが多い。鬼刑事といえども旨いメシで胃袋が満たされれば機嫌がよくなるもの。聞き込みや張り込みの活力になるし、一課と所轄の距離が縮まる大事な「儀式」でもある。
誰と組むのかはわからず、俺は真面目すぎる奴とは馴染めなかった。そんな時こそ一緒の食事だ。管轄内の「お薦め飲食店」に案内してもらい、旨いメシを食べていると、自然と緊張がほぐれる。それからは自分でも気になる店を見つけて、昼飯のたびに事件の打ち合わせをする。時には署内では口に出せない2人だけの会話を交わし、真の「相棒」となっていく。
この儀式は刑事部特有のもので、公安部では聞いたことがない。毎日旨いメシを食べるので、刑事の舌は肥えていると思う。「孤独―」の五郎と同じで、個人経営の飲食店のほうが土地ならではの空気や文化、人柄が伝わり、捜査に役立つヒントも得られた。
刑事ドラマの定番といえば、「取調室のカツ丼」だ。実際は、被疑者に食事のメニューを選ぶ権利はなく、留置場で食べるのが原則。取調室で提供したら、自白を引き出すための利益供与にあたり、俺の首が飛んでいただろう。
数え切れないほど旨いメシを食べた中、最後の晩餐に選ぶのは、大田区・蒲田のとんかつ「丸一」だ。昼飯は1000円を目安に探すが、ここは2000円以上支払う価値がある。初めて店を訪れたのは、06年に「マブチモーター社長宅殺人放火事件」の犯人を、碑文谷署(目黒区)で取り調べした時のこと。検事調べ(検察官が被疑者を取り調べる)で時間が空いたので、同僚の刑事が蒲田に旨いとんかつ屋があると誘ってくれた。
少し遠出をして、注文した上ロースかつ定食はボリューム満点。肉厚で食べごたえがあり、脂部分の甘さとサクッとした衣は一口食べて衝撃を受けた。すぐに一課の管理官にも紹介し、ちょっとしたブームになったほど。大森署(大田区)で別の事件を担当した時には、大森にも丸一はあるが、蒲田店の味が忘れられなくて足を運んだものだ。
退官以降も、その土地に行けば捜査した事件とともに旨いメシ屋を思い出し、今も暖簾をくぐっている。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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