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記事全文を読む→佐藤誠「取調室の裏側」〈薬物犯罪でライバル関係にあるマトリと組対5課の捜査の違い〉
昨年、女優の米倉涼子に薬物疑惑が報じられ注目を集めた。捜査し、家宅捜索を行ったのが、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部、通称「マトリ」である。
その素性はようとして知られていないが、薬物犯罪の捜査や不正流通の監視を行う厚労省管轄の組織だ。薬物取締りでは警察と同じ権限を持ち、手錠や拳銃の所持も認められている。
警視庁薬物銃器対策課(旧組対5課)とは、違法薬物取締りのライバル関係だ。だが組織性格は異なる。
マトリは国内密売組織の壊滅や国際薬物シンジケートなど大元の一網打尽を狙う。マトリにとって個人は「突破口」にすぎず、「線」の捜査が基本で逮捕まで時間を要する。一方、組対5課の捜査は「点」が基本。限られた人員で、時には別事件と並行して担当する。警察は検挙件数が評価につながるため、長い時間をかけるよりも、証拠が揃えば逮捕までの動きは早い。
被疑者がバッティングした時には、ルールがある。先に目星をつけていて、より深く情報を握っている側が優先されるのだ。
検察と事前調整して逮捕までの段取りをつけている場合、遅れた側は諦めるほかない。
「線」と「点」ということで捜査方法にも大きな違いがある。マトリは麻薬及び向精神薬取締法第58条で、合法的に「おとり捜査」が認められている。組対5課の場合は犯意を誘発し、違法捜査と判断されるリスクを回避するため、原則おとり捜査は行わない。それゆえ職務質問や内偵、張り込みの捜査が中心となる。
「潜入」をするためマトリ捜査員は「見た目」の自由度が高い。勾留施設を持たないマトリは警察署を間借りする。俺が原宿警察署で遭ったのは、茶髪をなびかせて、全身ヒッピー系のファッションに身を包んだ女性だ。腰縄をつけた被疑者と歩いてきた。到底、捜査員には見えない。思わず「どちら様」と話しかけると、マトリだと明かし、
「好きで着ているわけではないんです‥‥」
と、ばつの悪そうな表情を浮かべていた。
内偵の「本気度」も型破りだ。
あるマトリの捜査員は薬物情報を得るために、バーテンダーとして2年間勤務。ところが真面目な仕事ぶりが認められて店長代理まで昇格してしまう。アパレル店に店員として潜った捜査員は、売上成績が認められてスタッフ育成のために研修を任される立場に昇格したとも聞く。
薬物の売買が疑われたクラブで誰よりもハイテンションで踊っている人物がマトリだったり、警察がガサ入れした時に、内偵中のマトリを間違えて取り押さえることもある。
組対5課の捜査能力が低いとは思わないが、麻薬捜査のスペシャリスト集団の「役作り」と「度胸」には、これまで一課で場数を踏んできた俺も感心させられたものだ。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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