事件
Posted on 2026年01月31日 10:00

佐藤誠「取調室の裏側」〈世間を騒がせた「監禁王子」事件。取調べで膠着を打開した呼び名〉

2026年01月31日 10:00

 新成人の振り袖姿でふと思い出すのは、約20年前に少女たちを手籠めにし、「監禁王子」と報じられて世間を騒がせたAだ。北海道や青森、東京で17~23歳の5人の女性を監禁。ペット用の首輪を女性につけて、「ご主人様」と呼ばせて性奴隷にするなど非道の限りを尽くした。

 05年の2度目の逮捕時には、俺も同行している。

「俺は王子だ。あいつらは放し飼いの家畜だ」

 取調室でも異常な供述を繰り返し、女性は部屋から出ようと思えば出られたと容疑を否定。俺が困惑したのは、Aが本気で王子だと思い込んでいることだ。

 青森の資産家の息子で、小学生の時は車で登校し、あだ名も王子。中学生になるとクラスメイトと馴染めず、ゲームやアニメの世界に没頭する。そのまま大人になったAは、妄想の世界を生きていた。取り調べではアニメのセリフを駆使し、拘置所でもノートに書いた架空のキャラクターとの会話を楽しむ――これには検事も「調べようがない」と弱音を吐いたほどだ。そんな膠着状態を破ったのは事件資料の封筒だった。気まぐれで本名の代わりに「王子様」と書いたところそれを見たAは、突然嬉しそうに俺の手を握り、

「佐藤さん!! ありがとう。王子だと思ってくれているんですね!!」

 と叫んだのだ。Aの妄想の世界に入り込むことが得策と直観。以降の取り調べで「王子」と呼ぶと、協力的な姿勢に転じた。証拠からAが脅迫と暴力で精神を支配し、脱出できない心理状態にさせていたことは間違いないが、本人は監禁については否定を続ける。

 逮捕前には、統合失調症の診断を受けたと主張。監禁していた少女にも、「自分は病気だから捕まらない」と話していた。だが、「(被害者は)放し飼いの家畜だ」というAの言い分を通すわけにはいかない。そこで俺は、「女に依存し、監禁行為をしないと生きていけない一種の病気だ」と、Aに告白させれば勝ちが見えると思った。

 タイミングを見て、勝負に出る。

「王子、これは故意にやったんだろ?」

「女が勝手にやった」

「違うな。そもそも王子は病気ではない。正常な状態でやったんだよな」

 供述を引き出すために、あえて病気説を否定してみると、過敏に反応した。

「だから俺は病気だ!! 調書にもそう書け!!」

 Aは病気を盾にすれば、容疑を逃れられると勘違いしていた。しかし、この供述を得たことで、「Aは女性に対する依存症である」と調書に書き、署名した。検察は監禁致傷罪で起訴。初公判でもAは真っ白のスーツ姿で、アニメのセリフ口調で立ち回り、王子のままだった。取調官として、十人十色のホシがいることを学んだ事件である。被害者の少女らが成人式を経て幸せな現在を送っていることを願うばかりだ。

佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。

佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/

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