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記事全文を読む→前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~むしろ「台湾有事」の危険性は高まった習近平の「ご乱心」と欧米諸国の愚かな「中国詣で」~
昨年11月の衆議院予算委員会における、台湾有事に関する高市総理答弁。立憲民主党をはじめ一部野党は、中国を刺激するから撤回せよという、昔ながらの「反戦・平和」に取り憑かれた近視眼を露呈した。台湾有事に対する日本の対応を論じるにあたり、冷徹な戦略論は欠落していた。
中国の経済成長鈍化、人民解放軍幹部の相次ぐ失脚により、台湾有事の危険性は遠のいたという見立てがしばしば開陳されている。確かに中央軍事委員会副主席で数少ない実戦経験を有する張又侠が失脚し、同委員会メンバーは本来の7人中、習近平ほか1名という異常な状態だ。大規模な軍事作戦を展開する体制にはない、との観察は一理ある。
だが以下の諸々の理由により、むしろ台湾有事の危険度は高まっていると受け止めている。
第一に、中国が権威主義体制であることに留意しなければならない。組織としての軍隊に民主的な統制が効いている日米のような国とは、成り立ちを異にする。むしろ張氏のような人物を排除したことによって「殿、ご乱心」と習近平を諫めて止める者がいなくなったと解すべきだろう。ロシアのプーチンが大方の見立てに逆らって、2022年2月にウクライナに侵攻したのは苦い教訓だ。
第二に、習近平体制下で台湾問題のステークス(掛け金)が、この上もないほど引き上げられてしまったことがある。「中華民族復興」を成就する際の、不可欠なピースとされてしまったのだ。そう考えると、2027年に迫った第三期終了時までに、習近平がなんらかのアクションをとらざるを終えない立場に自らを追い込んでしまった、と評することもできよう。
第三に指摘すべきは、台湾武力統一に反対してきた自由民主主義陣営の足並みの乱れ、リーダー達の弱さだ。台湾有事は存立危機事態になり得ると明言した高市総理と異なり、カナダのカーニー首相、英国のスターマー首相はトランプのアメリカとの関係に苦労するあまり、カウンターバランスとして北京詣でをし、貿易・投資面での目先の利益を追求する体たらくだ。こんな擦り寄りは弱さと捉えられ、中国側の冒険主義を誘発しかねない。
イランの核施設のピンポイント爆撃、ベネズエラのマドゥーロ大統領夫妻の引致オペレーションで発揮された米軍の練度、一頭地を抜いた情報力に習近平が圧倒されたことは、想像に難くない。中国としてはそんな米国が関与してこないよう、彼らなりの「ディール」を希求することは間違いないだろう。その意味で、トランプ大統領による4月の訪中が、台湾情勢の展開に重大な影響を与える。
では、いかなる手段があり得るのか。「有事」を想定した場合、ノルマンディー作戦のように大軍を導入し、台湾海峡を横断して全面的に上陸作戦を敢行するのは、中国にとっても下策だ。台湾側を上回る大量のリソースを投入しなければならないのみならず、中国側が忌避したい米軍や日本の自衛隊の関与を招くのは必至だからだ。
片や民進党の頼清徳総統が率いる台湾にあっては、中国の威圧に屈して熟柿が落ちるように中国共産党の軍門に下ることは、まず考えられない。中国共産党は台湾の人心掌握に失敗し、むしろ年々、台湾人意識が高まっている事情がある。
そのようにみてくると、まさに全面的な武力の行使に至らない対応こそ、気をつけなければならないことが理解されよう。いわゆるグレーゾーンだ。国会で岡田克也議員(その後の衆院選で落選)が執拗に取り上げた海上封鎖がその一例だし、金門・馬祖などの周辺諸島への限定的な武力行使・占拠も考えられよう。サイバーアタックは日常的な課題だ。
であるからこそ、日本としても「媚中」はやめて、中国に対し是々非々で毅然とした外交を展開し、中国による危険な冒険主義を抑止していかなければならない。台湾海峡の現状を維持するとの強い意思と能力を必要に応じて示してこそ、抑止は機能することとなる。相手が台湾、そして日米の意思と能力を過小評価した時、危険性は飛躍的に高まる。
だからこそ、高市答弁には大きな意義があったのである。撤回などしたら、抑止が崩壊するのだ。
●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年に外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年に茨城県警本部警務部長を経て、09年に在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年に国際情報統括官、経済局長を歴任。20年に駐豪大使に就任し、23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)、「拝米という病」(ワック)などがある。
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