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記事全文を読む→佐藤誠「取調室の裏側」〈未解決の「八王子ナンペイ事件」捜査を惑わせた三層構造の正体〉
令和になった今でも、俺の中で生々しい記憶となっているのが警視庁平成三大未解決事件だ。その1つが、昨秋NHK「未解決事件」で取り上げられて再注目を集めた「ナンペイ事件」である。
95年7月30日夜、東京都八王子市の「スーパーナンペイ大和田店」で発生した強盗殺人事件だ。スーパーの事務所でパート従業員の女性とアルバイトの女子高校生2名が射殺された類を見ない残虐な事件に、警視庁は延べ22万人の捜査員を投入。04年に一課に配属された俺も、捜査員と情報を交換した。
この事件の異様性は音(証言)・光(目撃)・におい(証拠)がないことだ。
事件当日は現場近くの公園で盆踊りが開催され、発砲音が聞こえにくい状況だった。2階の事務所に続く外階段の利用者や逃走する不審者の目撃証言も少ない。現場にいたと思われる人物のDNA型や事務所から100点以上の指紋を採取し、照合作業を進めたが捜査は難航を極めた。
この事件は粗暴犯ではない。実は指示役、武器調達役、実行役の「三層構造」に分かれているのでは‥‥発生から30年経った今、俺はこう見立てている。
戒名は八王子スーパー強盗殺人事件。「強盗殺人」の文字が綴られているように、金目当ての線で捜査は進められた。しかし、金庫は解錠されず、売上金526万円は持ち去られていない。調べるほど犯行動機は金銭目的ではなく、強盗を装った「怨恨説」に捜査方針は傾いていった。捜査員が徹底的に洗ったのはパート従業員の生活状況や交友関係だ。水商売の過去や、多額の金銭をめぐって、
「あの野郎、殺してやる」
と周囲に殺意をほのめかせた人物が浮上する。当然、捜査本部は、その人物による依頼殺人を疑った。
使用されたフィリピン製の回転式拳銃「スカイヤーズビンガム」(38口径)は、当時、日本に出回っていなかった。素人の入手は不可能で、武器調達役の中国人が浮上する。俺の上司は「調達役は東京・墨田区の錦糸町にいる」と目星をつけ、裏社会の中国人組織を調べた。だが、泥沼の底を探っても錦糸町ルートの解明には至っていない。
依頼者と実行役は面識がなく、犯行動機も知らずに射殺したと見られている。その「三層」を結びつける決定的証拠が見つからないかぎり、コールド・ケースの扉を開くのは難しい。
奇妙なのは事件直前に店内から電話した通話記録があることだ。ホシは事務所に侵入後、高校生2人の手を縛って、口を粘着テープで塞いでいる。だが推定犯行時間はわずか5分程度。事務所内部を熟知し、実行犯を速やかに手引きした「内通者」がいなければ遂行できなかったというのが俺の読みである。
単純な絵図ではなく、解決への氷壁は想像以上に厚く高い。溶かせるのは現役警察官の熱意だけだ。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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