政治
Posted on 2026年03月04日 07:45

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~トランプのイラン爆撃の動機は「歴史に名を残すぞ」「イラン大嫌い」「中国・ロシアと親しい!?フザけんな」~

2026年03月04日 07:45

 案の定、オールドメディアの分析は、トランプ大統領によるイラン攻撃の動機をエプスタイン問題からの目くらましとしたり、ホルムズ海峡を通航する日本向け石油タンカーへの影響ばかりにとらわれたり、国際法違反ではないか、といったものが跋扈している状態だ。「的外れ」とまでは言わないが、一面的、皮相的と言わざるをえない。
 そこで、外交・安全保障専門家の観点から今回の攻撃がどう見えるか、現時点での印象をまとめてみたい。

 まず特記すべきは、トランプ大統領の「レガシー作り」への強い意欲だ。
 あれだけアメリカの国防・安全保障政策上、西半球が最優先と力説し、支持母体であるMAGA層の中東地域からの足抜け願望を十分に意識しているにもかかわらず、数十年に一度の千載一遇のチャンス到来として、イラン最高指導者ハメネイ師の排除、体制転換に乗り出したのがトランプだ。
 11月の中間選挙で予想されている不利を逆転しようという思惑や、相互関税引き上げを権限逸脱と判断した最高裁判決から世間の注目をそらす意図も当然あったろう。だがそれ以上に「歴史に名を残す大統領になってやる」との強い意欲を感じさせた。たまたま訪日中だった豪州の元首相も、同様の感慨を私に漏らしていた。

 第二に目を引いたのは、アメリカの為政者に根強い、現在のイラン体制に対する強い嫌悪感だ。
 1979年に発生した在イラン米国大使館の外交官人質事件。52人もの館員を拘束し、444日にも及んだ。救出作戦の失敗と併せ、米国人の屈辱の記憶から褪せることはない。
 そしてイランを後ろ盾としてテロや攪乱行為に走ってきたシリアのアサド政権、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イエメンのホ―シー派。故アーミテージ元国務副長官が「いつかイランにリベンジしてやる」と怒りを込めて語っていたことが想起される。イランを「伝統的な親日国」などとナイーブに断ずる論者には、想像の域を越えた話かもしれない。

 外交面では、イスラエルとの連携が印象的だ。
 同盟国に冷たいと評されてきた、トランプ大統領。だがイスラエルとの関係では、ガザ戦争への対応にせよ、イラン核施設爆撃にせよ、今般の攻撃にせよ、イスラエルの期待どおりの行動をとっていると言って過言ではあるまい。アサド政権、ハマス、ヒズボラを叩いただけでなく、遂には本丸のイランにまで攻め入った。今までの米国大統領がとうてい、やろうとしなかったことだ。
 かつて在京イスラエル大使に「イスラエルと日本はアメリカのリソースを奪い合うライバル。日本は北朝鮮に向けたがり、イスラエルはイランに向けたがる」と喝破されたことがある。その当否は置くとして、イスラエルのトランプ政権に対する働きかけに学ぶところは大だろう。

 国際社会に与える余波からも、目が離せない。
 シリアのアサドにせよ、ベネズエラのマドゥロにせよ、イランのハメネイにせよ、ロシアや中国との友好関係をアメリカに対する保険として使おうとしてきた指導者は、いずれも排除された。後ろ盾としての中露の信用は地に墜ちたのだ。
 殊にマドゥロの引致といい、ハメネイの殺害といい、米国の圧倒的な情報(インテリジェンス)力と高度に洗練された軍事能力なくして、とうてい成功できなかったオペレーションだ。肝を冷やしているのはロシアのプーチン、中国の習近平だけでなく、北朝鮮の金正恩にとってはもはや他人事ではない。

 最大の課題は、アメリカがイランに釘付けにならないようにすることだ。
トランプ大統領からは、4~5週間を超えても軍事行動は可能との発言がなされたが、イラクやアフガニスタンの轍を踏まないためには、地上兵力の投入は論外であるし、一刻も早く「足抜け」することが肝要だ。

 日本の国益の観点からも、インド太平洋地域の平和と繁栄を守る観点からも、アメリカが圧倒的な情報力と軍事力を世界に見せつけた今、そのリソースを北東アジア、なかんずく台湾海峡有事を抑止するために投入することが何よりも重要だ。
 3月の日米首脳会談では、そうした踏み込んだやり取りを期待したい。戦略眼を備えた高市総理だからこそ、トランプ大統領に説得力を持って働きかけができるからだ。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年に外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年に茨城県警本部警務部長を経て、09年に在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年に国際情報統括官、経済局長を歴任。20年に駐豪大使に就任し、23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)、「拝米という病」(ワック)などがある。

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