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記事全文を読む→F1ドライバー井上隆智穂が起こした前代未聞の「消火器珍事件」と「爆笑アナウンス」/スポーツ界を揺るがせた「あの大問題発言」
モータースポーツの頂点とされるF1界の歴史において、今なお「伝説」として語り継がれる奇妙な事故がある。1995年8月13日のハンガリーGPで、日本人ドライバー・井上隆智穂(タキ井上)が起こした、前代未聞の「消火器事件」である。
説明するまでもなく、F1とは人間とテクノロジーが融合したもので、モンスターマシンを操るドライバーが時速350キロ超えという極限の舞台で0.01秒の重みを競い合う、世界最高峰の自動車レースだ。
フットワーク・アロウズから参戦した井上は、レース中のエンジントラブルでマシンをコース脇に停車、リタイアを余儀なくされることになった。
ところが何を思ったのか、その直後、自ら消火器を手に炎上したマシンのもとへ。次の瞬間、消火のため後方からやってきたレスキューカーがあろうことか井上をはね飛ばしてしまったのである。
幸い大事には至らなかったものの、時速数百キロで争うシリアスなF1の現場で起きたこの珍事に、会場はどよめきと悲鳴に包まれた。
だが、事件はただの珍事では終わらなかった。その直後、場内には「His head is OK(彼の頭は正常だ)」というアナウンスが流されたのだ。英語圏の文脈では、体の負傷部位を強調する際、あえて「頭」という言葉を使うことで「脳震盪は起こしていない」という意味合いを持つ。
しかし「火を消しに行ってレスキューカーにはねられる」というコミカルとも思える状況もあり、「頭そのものは狂っていない」というブラックジョークのように響いてしまったのである。
病院へと向かうヘリで医師が「クレジットカードを出せ」
この信じられない光景に、ピット内でモニターを確認していたドライバーや関係者らは口をあんぐり。なんとも言えない表情で苦笑いするミハエル・シューマッハの顔が放送映像に映し出されたことで「あのシューマッハも笑っていた」とメディアを大きく賑わせたものである。
後年、井上自身は「レース後にヘリで病院へ運ばれる際、医師に『クレジットカードを出せ』と迫られた」といったエピソードまで公開。「世界で唯一、メディカルカーにはねられた男」という自虐ネタとして昇華させたことで、この一件はF1の歴史における「愛すべき伝説」となった。
実はこの事故がきっかけで、安全規定の厳格化が進んだことはあまり語られていない。生と死との狭間の中で生まれた、あまりにも人間臭い「笑い」。この事故と場内アナウンスはF1というスポーツが持つ、隣り合わせの悲劇と喜劇を物語る事件だったのである。
(山川敦司)
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