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記事全文を読む→金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第1回「金を求めて世界中を放浪する者業界ではそれを“金難民"と呼ぶ」〉(1)「金の価値は世界共通」
ごく普通の主婦ら5人が金の延べ板30キロを密輸入した疑いで逮捕されたのは2017年。この密輸事件を題材に作られた映画が話題を集めているが、なぜ同様の犯行が繰り返されてきたのか。連載第1回では金密輸のカラクリと当局による規制の変遷を解説する。
金を追う旅は映画「マジカル・シークレット・ツアー」から始まった。このほど封切りされたその作品で、有村架純や黒木華、南沙良が演じるのは、夫の借金返済などをきっかけに「金密輸」に手を染める一般の主婦3人だ。
実際、かねてから金を密輸する犯罪は、誰もが陥りやすい闇バイトのひとつとして社会問題化していた。そして同作も、2017年に愛知県の中部国際空港で主婦たちが逮捕された金密輸事件に着想を得た作品だという。
当時の毎日新聞は、40〜70代の一般の主婦5人が、韓国から中部国際空港に金塊計30キロ(約1億3000万円相当)を下着内に隠して密輸し、摘発・逮捕されたことを伝えていた。
担当編集者と映画を鑑賞したあと、「実は」と切り出した。自身に金密輸事犯の取材経験があること、そして脚本にも協力していることを明かした。
「歴史とともに映画にない闇の部分を描いたら、面白いかもしれませんね」
乗り気な姿勢と語り口は、決して社交辞令ではないと思わせた。
すぐさま組織の幹部に接触した。男は雄弁に金密輸の魅力を語った。
「これほど効率のいいビジネスは他にないよね。リスクなくやれてた時代が懐かしいよ」
仕組みは単純で、金を海外から税関で申告せず密かに持ち込み、国内の買取業者に売る。それだけで本来、払うはずの消費税分のカネが手に入る。
税率10%で1000万円分の金を売れば、100万円が儲けだ。
ちなみに日本は金の密輸大国と呼ばれている。金を課税対象とする国が、日本・韓国・インドをはじめ数カ国しかないからだ。世界的に見れば、金に消費税をかける国のほうが珍しい。だからこそ日本は格好のターゲットとされてきた。
金には魔力がある、と男は強調する。例えば1キロの純金インゴットは、文庫本の半分ほどの大きさで、厚みは1センチほどのサイズ感しかない。
「見た目が小さく、手にする前は誰もが『軽そう』と思う。ところが実際に渡すと、ずっしりとした重みが手に響いてくる。その瞬間、初めて金に触れた者は例外なく『うわっ』と声を上げ、感動する」
その小さな塊が、重みとともに鈍い光を放つ。純度が上がるほど照りは増す。
「みんなそれにやられちゃうんだ」
金の虜になった者たちは、やがてその本質的な価値に気づいていく。金とは何か。紙幣の起源をたどれば、金にたどり着く。かつて通貨は金を担保に発行されていた。今は国家の信用が紙幣を支えているが、「金こそが本物のお金」だと男は言う。
最大の強みは価値が消えないことだ。紙幣はインフレや国力の低下とともに目減りする。だが金は逆に、インフレが進むほど価格が上がる。実際、金のチャートを見れば一目瞭然で、長期的にはほぼ一貫して右肩上がりを描いてきた。
仮想通貨ブームの今、月利60%などという数字が飛び交い、多くの資金がビットコインに流れ込んでいる。
だが、男は懐疑的だ。
「担保になるものが何もない。みんなが浮かれて値段が上がっているだけ」
不動産も信頼できる資産ではあるが、ひとつ致命的な弱点がある。動かせないのだ。日本の不動産は日本にしか存在できない。
だが金は違う。どの国に移っても、持ち込みさえすれば、その場で売って簡単に現地通貨に換金できる。ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の指標に基づいた世界共通のレートが存在するため、価格は世界中どこでもほぼ変わらない。時差や輸送コストの制約を受けずに世界規模で売買できるこの「高い流動性と透明性」こそが、資産防衛における金の最大の強みである。
金の価値を知り、ひとたび儲ければ、もう抜け出せない。その成功体験が、また密輸へと駆り立てるのだと男は言う。
「『相場より安く手に入る』という詐欺話に飛びつき、儲けを根こそぎ奪われたヤツらが、いっぱいいるよ」
それでもやめられず、安い金を求めて世界中を放浪する者を、業界では“金難民”と呼ぶ─。
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。
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