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Posted on 2026年11月06日 07:00

【追悼】小林信彦さんと私の「新藤兼人監督をめぐる接点」と感服した「論評視点」/大高宏雄の「映画一直線」

2026年11月06日 07:00

 作家の小林信彦さんが亡くなった。メディアで訃報が伝えられたのは10月23日。同じ日には村上龍さん、監督の山口和彦さん、監督・脚本家の長田紀生さんの死去も報じられた。
 小林さんは小説、評論、エッセイなど、活動は多岐にわたる。評論、エッセイでは映画、喜劇、テレビ、演劇、落語など、その執筆範囲は非常に広い。
 小林さんには一面識もなかったが、筆者にとっては特別な存在だった。一作家、一評論家ではない。
 中でも職業柄、「映画ジャーナリズム」や「映画批評」に関する文章は刺激に満ち溢れていた。個人的なことを書かせてもらう。

 筆者の文章も何度か引用していただいたが(記名、無記名含め)、ひとつだけ挙げてみたい誘惑にかられる。
 それは「週刊文春」で長く連載していたコラム「本音を申せば」をまとめた一冊「映画の話が多くなって」(2012~13年)の中にある。新藤兼人監督が100歳で亡くなったことについて「キネマ旬報」の連載(2012年)に書いた文章が引用されていた。
「ある映画雑誌に、キネマ旬報の歴代ベストテンを調べて見たら、意外にも新藤兼人監督はベストテンの常連だった、ただし順位は高くない―と驚いている人がいた。それはそうだろうとぼくは思うのだが、その人は真面目なのである」

「その人」こそ、筆者なのである。個人的には少々きつい文章だったが、それはともかくとして、そのあとの文章には恐れ入った。
「なんといおうと、新藤兼人はすぐれた脚本家(太字になっており、横に、、、がふってある)であった」と言い切り、脚本家としてのスタートから、各脚本を列記していったのである。

 これには伏線があった。筆者は先の「キネマ旬報」では、新藤監督の数多い訃報、追悼文には4つの視点があるとして、「100歳という年齢のこと、(監督)作品評価、独立プロの功績、脚本家の評価」を挙げた。
 その上で「キネマ旬報」のベストテンにおける評価の低さを、松竹ヌーベルバーグの影響下にあったと思われる、当時の「映画ジャーナリズム」の「偏向」ぶりから指摘した。
 小林さんは、僭越ながら、その中の「脚本家」に焦点を当てたのだと思っている。「キネマ旬報」の監督作のベストテン云々の話とは、全く違った視点である。

 戦時中に、溝口健二監督から(執筆した)脚本を「叱られ」たものの、戦後、松竹脚本部に復帰。脚本を書いたマキノ雅弘監督の「待ちぼうけの女」が「復刊キネマ旬報ベストテンの第4位を飾った」と書く。
 以下、吉村公三郎監督の作品タイトルがズラリ並ぶ。同ベストテン1位の「安城家の舞踏会」をはじめ、「わが生涯のかがやける日」「誘惑」「嫉妬」「真昼の円舞曲」などだ。
 木下惠介監督作品では「結婚」「お嬢さん乾杯!」を書いた。吉村=新藤コンビでは「偽れる盛装」を送り出し、大ヒットに導く。
「新藤兼人はこのヒットで、監督デビュー作『愛妻物語』を作り、独立した映画作家に変身する」
 監督デビュー後も各社の脚本を書き、「書いた脚本は250本とラジオで言っていた」と続ける。

脚本家としての功績の大きさを知ることができる文章

 経営が不安定な独立プロ(吉村=新藤コンビが設立)には資金が必要であり、脚本家という仕事は新藤監督にとって、独立プロ維持のためにも命綱であったのだろう。
 これらの経緯は知らなかったわけではないが、新藤監督の脚本家としての功績の大きさが、一段と知れる文章であった。
「映画ジャーナリズム」というものが、もし機能しているのであれば、失礼ながら、このような「やりとり」こそ重要ではないか。
 小林さんは、話が通じる人なのだ。それは映画の「同時代性」に徹底してこだわるところから来ているようにも感じる。

 筆者も執筆の根底に、映画の「同時代性」なるものを孕んでいる。その映画をいつ見たのか。ここを起点にしつつ、今の時代と何が交わり、何が交わらないか。
 同じ「映画の話が多くなって」には、映画評論家の山田宏一さんの著作「映画的な、あまりに映画的な マキノ雅弘の世界」に対する次のような記述も目を引いた。
「山田さんが好きな映画にのめり込んでゆく時は、文体に独自のうねりと色気がある。評論なんて情けないものではなく、これはマキノ監督へのラヴレターだから」
「評論なんて情けない」と、あっさり書いている。

 小林さん、本当にありがとうございました。いろいろなことを教わり、いろいろなことを考えました。「映画ジャーナリズム」、そして「映画批評」にとって小林さんの不在は、とてつもなく、大きい。

(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2026年に35回目を迎えた。

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