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記事全文を読む→【追悼】小川眞由美が「女優の到達点」に立った「生と性が凝縮されたシーン」/大高宏雄の「映画一直線」
俳優の小川眞由美さんが亡くなっていたという第一報が出てから、すでに20日が経過した。最初の報には正直、驚いた。
実の娘である小川雅代さんが、「毒母」と見出しをつけたあるメディアで、約10年も会っていない小川さんと自身の関係を語っていたからだ。
訃報以降、大女優と思っていた彼女について、メディアの発信が少ないことも気になった。目立った芸能活動をしなくなって随分、歳月が経ったこともあろう。年配者はともかく、小川眞由美の名を知らない人が周囲に何人もいた。
小川さんの作品歴では代表作として必ず挙がる、今村昌平監督の「復讐するは我にあり」(1979年)が、やはり出色である。彼女の代表作を超えて、女優のひとつの到達点のような高みにあったと思う。
映画は緒形拳扮する凶悪犯罪者の榎津が、弁護士の仮面をかぶりつつ全国を逃げ回っていく過程で、小川さん演じる女性と出会う。
犯罪映画史上でもその凶悪ぶりは抜きん出ていたが、詐欺師としての振る舞いがとぼけている。「重喜劇」という異名を持つグロテスクな笑いを信条にしている今村昌平の真骨頂である。
小川さんは、榎津が立ち寄る浜松のいかがわしい旅館の女将(ハル)だ。清川虹子が母親を演じる。
母親は榎津を警戒するが、いぶかしみながらもハルは、エリート色を巧みに出し、口がうまい榎津にコロッと参ってしまう。初めて接したタイプの男性だったのであろう、
小川さんは、遠州弁(浜松弁)を実にうまく喋っていた。筆者は浜松出身なので、遠州弁の種類や独特のイントネーションをよく知っている。違和感が全くなかった。
ときに今村作品では、方言を話す女性が描かれるが、コミカルさを引き出すことが多い。ところが小川さんの遠州弁は、そうはならなかった。甘ったるく、美しい響きを奏でる。
とともに、艶めかしい甘さの中に、哀しい響きが混ざり合う。長いこと、男の性の道具になってきたとおぼしきハルの一面が、遠州弁を哀しい色に染めると言っていい。
それが詐欺師の榎津への一直線な思いにつながるだけに、哀しさは一段と色を濃くする。榎津に、生の突破口としてのなんらかの希望を見出そうとしたのかもしれない。
憑依を超えて究極の小川眞由美そのものになり切っていた
と、ここで思う。哀しさという言い方は少々、傲慢ではないかと。ハル自身は、哀しいとは思っていないだろう。そう感じられてくる。小川さんの驚嘆すべきところだ。
ハルからは、騙されていると頭ではわかりながらも、何物かに突き動かされて、「そこ」まで行かざるをえない切羽詰まった感情のほとばしりが溢れ返る。生と性が凝縮された最後の「ラブシーン」は、ハルがあまりに愛おしくて涙が出る。
なぜここまで、ハルを演じることができたのか。その役に過度に入り込むことを、「憑依する」という言い方で表す場合がある。俳優に対して、最大級の称賛の言葉である。
「復讐するは我にあり」の小川さんは「憑依」を超えて、究極の小川眞由美そのものになり切っていたのではないか。それは演技を超える何かである。そう思える境地に入っていた。
代表作は数知れない。武智鉄二との驚きのカラミがあった「母」(63年)、緑魔子と共演した東映の2本「二匹の牝犬」(63年)と「悪女」(64年)などの初期作品は、特に忘れ難い。
「座頭市の歌が聞える」(66年)、「陸軍中野学校」(66年)、「白い巨塔」(66年)などの大映作品。
「影の車」(70年)、「八つ墓村」(77年)、「鬼畜」(78年)、「食卓のない家」(85年)などの松竹作品。
これにATGの「さらば箱舟」(84年)なども加えると、大手映画会社からATGまで、各社横断的に活躍し、それぞれに特筆すべき俳優の顔を見せてくれたことがわかる。
小川さん、ありがとう。大ファンの一人として、ささやかながら、この文章を捧げたいと思う。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2026年に35回目を迎えた。
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