スポーツ
Posted on 2016年10月17日 05:56

「巨人監督解任」秘話 長嶋茂雄の“いちばん長い夜”

2016年10月17日 05:56

20161020s

 1980年10月21日、千代田区大手町にある読売新聞社の大会議室で、長嶋茂雄は300人の報道陣に語りかけた。

「2000万人とも2500万人とも言われる(巨人)ファンの皆様に対し、成績が不本意(61勝60敗9分け。3位)だったという、そのことのみで、男としてのケジメをつけ、責任を取りたいということです」

 長嶋は「男としてのケジメ」というところに力を込めた。彼らしい引き際の美学だった。

 記者会見を終え、トヨタ・センチュリーに乗り込むと、助手席には長嶋が「先生」と呼ぶ宮本卓(故人)がいた。宮本は、いわゆる“特攻くずれ”で、「我が神州日本は永久に不滅です」という特攻隊員が飛び立つ直前の言葉を叩き台にし、「我が巨人軍は永久に不滅です」という名セリフを考え出した男だった。

 宮本は怒っていた。

「Aクラスを確保したら、監督続投のはず。話が違うじゃないか」

 監督になって6年目の長嶋だったが、采配のバロメーターとも言うべき1点差ゲームは16勝33敗(勝率3割2分7厘)。巨人OBの重鎮らから火の手が上がり、務台光雄読売新聞社社長(故人)が解任を決断したのであった。

 大田区田園調布の自宅に着くと、長男の一茂(当時・中学3年生)が泣きそうな顔で出迎えた。

「頼まれていたシューズだぞ」

 宮本は一茂を励ますため、28センチのナイキ製バスケットシューズを買ってきたのである。

 長嶋と宮本の酒盛りが始まった。長嶋は現役時代、ビールをコップ1杯飲んだだけで手先から足先まで真っ赤になったが、監督就任後は悩みごとが多く、焼酎をお湯割りで飲むようになっていた。それでも数杯程度だったが、この日は違った。宮崎のそば焼酎「弾」を速いピッチで飲み干した。

 中庭では、一茂が真新しいシューズを履き、雄叫びを発しながらラバーが貼られた木を蹴り上げていた。ミスターが“ストレス解消の木”と名付けた樫であった。

「俺は帰るぞ」

 焼酎のボトルが空き、宮本が立ち上がると、長嶋は玄関まで追いかけてきた。

「先生、飲み足りないだろ。この酒を持ってってくれ」

 珍しい青竹に入った「菊正宗」だった。ところが、長嶋は落としてしまい、長さ50センチの竹の先から酒がこぼれた。すると、それまで耐えに耐えていた長嶋が、感情を爆発させた。

「こんちくしょう!」

 大声で叫ぶと、青竹を式台に叩きつけた。驚いた宮本が長嶋の顔を見ると、赤く混濁した目にうっすらと光るものがあった。

松下茂典(ノンフィクションライター)

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2025年03月23日 05:55

    胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月18日 05:55

    気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月25日 05:55

    急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2025/7/22発売
    ■620円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク