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記事全文を読む→元国連捜査官が見た北朝鮮「ブラックホール」(4)日本の制裁は「抜け穴」だらけ
そこに一陣の風が吹いた。翌15年3月、日本海を航行していたオーシャン・マリタイム・マネジメント社(以下、OMM)の貨物船「ヒチョン号」が荒天のため、鳥取県境港の沖合、美保湾内からわずか5キロの場所に停泊。慣例として日本政府は、人道的見地からこれらの船舶を受け入れることになったのである。
「安保理決議では、たとえ人道的理由に基づく措置であっても、自国の領域にある制裁対象団体のあらゆる資産の凍結が義務づけられている。つまり、日本政府にはこの貨物船を資産凍結する義務があったんです」
貨物船の船長室や通信室には中ロ両政府の「証拠」が残されているはずだ。これを押さえれば、OMMが世界各地に送り込んでいる工作員のグローバルネットワークを浮き彫りにできる。OMMのネットワークを壊滅させる千載一遇のチャンスが、目の前にあった。
「ところが日本政府はヒチョン号の資産凍結をしなかった。理由は政府内、省庁間でOMM船の対応への意見対立が生じた。海上保安庁は貨物検査をして『懸念貨物』が見つからなければそれ以上、船を拘束する法的根拠はないとし、対して内閣官房は『まだその船は出すな』と要請。結局、関連する国内法が整備していないことで、ムダな時間だけが経過していくことになるんです」
そこで古川氏は、日本政府宛の公式書簡を起案。国連事務局から国連日本政府代表部へ送付した。だが、日本政府は検査を繰り返したものの、資産凍結に向け動き出すことはなかった。
15年3月13日、ニューヨークの国連本部。船舶データベースで、日本の領海を離れていくヒチョン号の信号を目で追っていた古川氏。船が島根県の隠岐諸島を過ぎると、自動船舶識別装置の信号が消えた。
1カ月後、古川氏のもとに、日本政府から次のような回答が返ってきた。
〈国連海洋法条約においては、全ての国の船舶に対して、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、領海における「無害通航権」が認められているため、ヒチョン号がOMM貨物船であるという事実だけでは、その通航が「無害ではない」とは必ずしも判断できず、ヒチョン号の無害通航権を認めざるをえなかった〉
日本政府はヒチョン号に対し2回の貨物検査を行ったが、回答には〈これは極めて異例の措置〉とあり、この言い訳がましい文言が古川氏のむなしさを募らせた。
「安倍総理や菅官房長官、岸田政調会長が一様に『国連安保理決議の完全履行を!』と訴えていますが、国内での船舶の資産凍結については、議論すらされていないのが現状です。日本で安保理決議履行のための法律である、貨物検査特別措置法が施行されたのが10年5月。以降、新法はできていません。政府は安保理制裁決議で資産凍結対象に指定された北朝鮮船籍の船舶が領海内に入った場合、船体の没収を可能とする新法の検討を始めたものの、いまだ成立する気配すらない。つまり、日本の制裁は相変わらず『抜け穴』だらけ。北朝鮮はそれをあざ笑うように、ネットワークを世界に広げている。だからナメられる。結局、日本は傍観者でしかないんです」
次は、世界各国に広がる北朝鮮の闇ネットワークの実態に迫る。
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