エンタメ

我が青春の週刊少年ジャンプ(7)かっこいいキャラクターもあっさり死ぬ

 連載に向けて急ピッチで準備が進んだ「北斗の拳」だが、まだハードルは残されていた。

 原は物語を迫力のある漫画に仕上げていく演出力はズバ抜けていたが、物語作りはあまり得意ではなかった。読み切り版「北斗の拳」では、堀江がかなりのアイデアを出していた。ほとんど原作者として作品に関わっていたのだ。

 このまま担当編集である堀江が原作を作り続けることは、週刊連載では不可能であった。そのため、「連載にするなら原作者を付けろ」という見えないプレッシャーがあったという。

「武論尊先生の前にも、他の原作者の方に書いてもらったことがあるんだけど、どうもしっくりこない。それで、武論尊先生を先輩に紹介してもらった。浪花節を書ける人だったから、原先生とマッチすると思った。とはいえ、もう読み切り版で『北斗神拳』というベースが出来上がっていた作品だから、武論尊先生は嫌だったと思うよ。『とりあえず試しに書いてみて』という形で頼んでやってもらったんだけど、これが、案の定ハマった」(堀江)

 連載開始後も堀江は物語作りに大きくかかわり、3人態勢で「北斗の拳」を成長させていく。堀江はアイデアを出すのはもちろんのこと、原作者と漫画家の間に立ち、両者の気持ちが同じになるよう調整役も果たした。事前に、両者に情報を少しずつリークする調整法が、「北斗の拳」における「キャラクターのインフレ現象」を起こす。

「普通、ちょっとかっこいいキャラクターを生み出せたら、『これでしばらく人気を出せる』と考えるんだけど、『北斗の拳』では、かっこいいキャラクターもあっさり死ぬ。原先生にすぐ死ぬキャラクターであることを教えなかったから、『この先も登場するのかな』と思わせておいて、メインキャラのように描いてもらっていた」(堀江)

 もちろん、武論尊も堀江と“闘って”いた。小誌4月4日号の吉田豪のインタビューで、ボツになった時をこう回想している。

「何も言わないで(原稿を)突き返すんですよ。ホントにムカつくんだけど、(中略)おもしろいかおもしろくないかっていうのは堀江くんのツボに入るか入らないかなんです。顔見りゃただの鈍感男だし、態度もデカい男なんだけど、そのツボだけはすごいものを持っている」(武論尊)

 堀江に全幅の信頼を置いていたのは、原も同様だ。

「(原にキャラがすぐ死ぬことを)言っても、言わなくても全力で描いていたけどね。ヒット作を何本も描く作家さんなんてほとんどいない時代で、原先生も『北斗の拳』を描いて燃え尽きるって気持ちだったから、出し惜しみなんてしなかった。でも、その分、原先生も武論尊先生も大変だったと思うよ」(堀江)

 その後、ジャンプは躍進を続け、堀江も93年に編集長に就任する。94年には発行部数653万部を記録。その後、00年に集英社を退社した堀江は、原や北条らとともに株式会社コアミックスを設立した。現在は「月刊コミックゼノン」の出版をしている。

「『北斗の拳』を嫌いという人もいたけど、大ヒット作っていうのは、多くの人が嫌いでも10人に1人が熱狂的に好きと言ってくれる作品のことを指す。まさに『北斗の拳』は、そういうエッジの立った作品だった。その分、少年誌に掲載する作品じゃないって声もあったけど、主人公が少年でなくても『少年性』を持って入れば、少年漫画だと思うんだよね。じゃあ、『少年性』とは何かって言われたら、『友情・努力・勝利』だよ。今も『コミックゼノン』に『少年』と付けば、少年誌になるように作っている」(堀江)

 今年、「北斗の拳」は連載開始から30周年を迎えた。今なお国民的作品として、光り輝いているのは、ジャンプの編集方針が息づいているからだろう。

カテゴリー: エンタメ   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
3Aで好投してもメジャー昇格が難しい…藤浪晋太郎に立ちはだかるマイナーリーグの「不文律」
2
高島礼子の声が…旅番組「列車内撮影NG問題」を解決するテレビ東京の「グレーゾーンな新手法」
3
あの「号泣県議」野々村竜太郎が「仰天新ビジネス」開始!「30日間5万円コース」の中身
4
「致死量」井上清華アナの猛烈労働を止めない「局次長」西山喜久恵に怒りの声
5
皐月賞で最も強い競馬をした3着馬が「ダービー回避」!NHKマイルでは迷わずアタマから狙え