超高層ビル、高層ビルなどの高層建築物は「地震で倒壊することはない」と考えられてきた。今回の新被害想定でも、タワーマンションを含めた高層建築物が倒壊した際の人的被害などについては事実上、全くの考慮外に位置づけられている。
ところが、絶対安全と信じられてきた高層建築物にも近年、地震で倒壊するリスク、少なくとも「3つの重大リスク」が存在することが、建築学や地震学などの専門家の間で指摘され始めているのだ。建築工学の専門家が明かす。
「高層建築物をわずか十数秒で倒壊させる『長周期パルス』、揺れを次第に増幅させることで高層建築物を倒壊させる『長周期地震動』、そして高層建築物を基礎杭や支持層などの足元からなぎ倒す『側方流動』。この3つが今、専門家の間で深刻な脅威として浮上してきている重大リスクです。いずれにおいても、一定の条件が揃えば、高層建築物といえども、否、高層建築物ゆえに、あっさりと倒壊します」
実は新被害想定にも、長周期地震動に触れたくだりがある。だが、そこでは「家具の固定」「耐震性の確認」「耐震補強の実施」の必要性が示されているだけで、長周期パルスと側方流動については話題にすら取り上げられていない。建築工学の専門家が続ける。
「高層建築物には1000人を超える人々が働いたり、居住したりしています。しかも高層建築物が倒壊した場合、周辺にある住宅やビル、道路や鉄道の施設などが下敷きになりますから、死者数は想像を絶する数に上ると考えられるのです。高層建築物が倒壊した際の都内での総死者数を定量化して明示することは難しいでしょうが、少なくともそのリスクについては、今回の被害想定で注意喚起しておくべきではなかったでしょうか」
長周期パルスと長周期地震動と側方流動。次回からはしばらく、高層建築物を倒壊させる戦慄のメカニズムについて、それぞれ詳しくレポートしていきたい。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。