社会

森健「新聞をななめに読むとわかること」 ー元日号から“新聞”の課題が見えたー

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〈何となく、今年はよい事あるごとし 元日の朝、晴れて風無し〉

 かつて石川啄木はそう新春を詠んだ。今年元旦の東京も天気は悪くはなかったが、新聞各紙の視界は良好とは言いがたかった。

 年明けから2週間以上がたつが、元日号の新聞を比較してみよう。

 元旦は各紙とも入魂の企画を発行する。別刷りの特集企画を含め地力や姿勢を示す。読売は事件系のスクープを目玉にするのが恒例だが、多くの新聞は大型連載を始動させる。まして今年は戦後70年。近隣国との関係や戦後総括、安倍政権3年目のありようなど、報道手法はさまざまだろう。

 だが、実際に届いた紙面は何とも気の抜けたものばかりだった。とりわけ肩透かしを覚えたのが朝日だ。

 1面トップで戦後70年企画を据えたのは想定どおりだが、その対象はファッションデザイナーの森英恵や高田賢三などの軌跡。編集委員は「個々の生き方から70年を見る」趣旨だと解説したが、夕刊のような緩さだった。理由を考えると、あの問題が思い当たった。

 吉田証言問題などを巡る先月26日の第三者委員会。朝日は取材時の「角度」について外部委員から強い批判が寄せられた結果、「思い込みや先入観を排し、公正で正確な事実に迫る取材を重ねます」という反省を報告書に記した。戦後70年企画の切り口は他にもあるはずだが、あえてデザイナーという異議の少なそうな人物を選んだのは、そうした社内的な事情が反映されたのではないか。

 反省は必要だろうが、紙面自体が小さくまとまることに意味があるとは思えないのだが‥‥。

 読売は例年のお家芸で1面に事件を報道。今年は昨年2月に起きたビットコイン問題で、「消失した99%は自社内の不正操作だった可能性が高い」と報じた。それはよいのだが、元旦の社説はひどかった。「成長力強化で人口減に挑もう」という副題で通常より4倍ほど長い記事が躍ったが、問題はその中身だ。課題を盛り込みすぎて何を言いたいのかがよくわからないのだ。アベノミクス、雇用、日米同盟まで1つの原稿に押し込む荒技。昨年も似た体裁だったので、論説委員間の原稿調整の問題なのだろうか。課題が多いのは百も承知だが、それを並べるだけでは1年を見通す記事にはならないだろう。

 期待を持てたのは日経毎日だ。日経では「働き方Next」という連載で雇用制度の変化を描こうとしており、外国籍社員や限定正社員などで日本型雇用慣行の限界を探ろうとしていた。やっかいだが、再整備が必要なのが雇用制度であり、この連載は妥当だろう。

 毎日はさまざまな局面で広がる格差をテーマに「一極社会」という連載をスタート。都市と地方、雇用や生き方を皮切りにしていた。同紙では10年ほど前の小泉政権時代に「縦並び社会」という優れたルポの連載があった。あの時代と比していっそう混迷が深い現在、今後どういう記事が出るのかが期待される。

 戦後ものを直球で投げ込んできたのは産経で、昨年70年を迎えたペリリューの戦いを追って1面に掲載。対して、東京は「武器輸出国へ資金援助」というスクープで、現政権の安全保障と外交のありようの変化に問いを投げかけた。

「1年の計は元旦にあり」──しかし、新聞読者は紙面から1年の見通しが立てられたのだろうか。どうもそうは思えなかったところが、今の新聞の課題なのかもしれない。

◆プロフィール 森健(もり・けん) 68年生まれ。各誌でルポを中心に執筆。企画・取材・構成にあたった「つなみ 被災地のこども80人の作文集」「『つなみ』の子どもたち」で、被災地の子供たちとともに、第43回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

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