芸能
Posted on 2024年12月05日 05:59

火野正平「50年前のドラマと遺作映画」ありえない一体化/大高宏雄の「映画一直線」

2024年12月05日 05:59

 火野正平さんが11月14日に亡くなってから、3週間あまりが過ぎた。75歳だった。火野さんといい、西田敏行さんといい、唐突な印象のある俳優の訃報が続いている。全くタイプが違っていたお二方だが、最期まで現役で活躍し、俳優の道を突き進んだのは同じである。

 火野さんについて、個人的な昔の話をさせてもらう。彼の存在がわが脳裏に強烈に入り込んできたのは、1973年のこと。テレビドラマ「それぞれの秋」の大学生役だった。火野さん、当時24歳。山田太一が脚本、井下靖央らが演出を手掛けた。

 この作品は、ある家族を描くホームドラマである。もちろん山田脚本だから、ほんわかムードのホームドラマとはわけが違う。皆それぞれに、いろいろな問題を抱えている。

 一家を構成する俳優は小林桂樹、久我美子、林隆三、小倉一郎(当時の俳優名)、高沢順子の5人。火野さんは、小倉の大学生の友達の役だ。ひ弱な感じが持ち味の小倉とは対照的に、火野さんはちょっと不良がかっていた。

 といって、性根の入ったワルではない。チンピラ風情でもない。だから、高圧的な怖さは発しない。周りを慌てさせるいたずらっ子が、大学生になったような感じだ。

 上背はそれほどない。時代の流行だった長髪、斜に構えた態度、独特の響きを持つ声質。同じく70年代初頭に頭角を現す萩原健一や松田優作とは違って、どこにでもいそうな身近な趣があった。

 小倉をちょっとしたワルの道に誘い込む。いたずらのつもりだったろうが、それが桃井かおり扮するスケ番の登場を呼び起こし、妹役の高沢順子の隠された素性をあからさまにする。

 いわば火野さんは、ドラマに波風を立てる役回りだ。「それぞれの秋」という家族ドラマの恥部をさらしていく、先導役とも言っていい。ワルになりきれず、人の好さ、優しさがチラチラし、ヒーローやアンチヒーローとも縁遠い彼の演技スタイルが、とても新鮮だった。

 同年の大河ドラマ「国盗り物語」の秀吉役も含め、お茶の間の人気は映画へと波及。翌1974年、舛田利雄監督の「俺の血は他人の血」で、映画の初主演を果たす。子役時代から、足かけ10年以上の歳月が過ぎている。

 ところがこの作品が不評を買い、興行的にも厳しかった。筒井康隆原作の、SF調の作風が肌に合わなかったか。その後はテレビや映画で、脇役として登場する機会が増えていった。

 火野さんは、地に足がついた俳優なのだと思う。テレビの「必殺」シリーズなどでは、若い時のくだけた風貌、キャラクターの上に立ち、地べたを見据えたような重厚な演技の質が加わった。

 そう、あの独特の声のトーンは、地べたから湧き上がってきた、とも言えるかもしれない。松田優作の迫力ある低音質とはひと味違って、凄みと温かみが同居していた。

 映画の遺作は、今年大ヒットした「ラストマイル」だ。大手ショッピングサイトの末端で働く配送ドライバーの役がまた、似合っていた。

 自身の仕事をめぐり、過去の自負の思いと、現在の迷いの間を行ったり来たりする。時代は変わった。仕事の引き際の時期を間近にした人からすると、彼の心情がよりいっそう強く伝わってくることだろう。

 火野正平さん。「それぞれの秋」と「ラストマイル」の2作品が50年の時を経て、彼の俳優人生の中で見事に重なり合った気がしてならない。ありえないことだと思う。ありがとうございました。

(大高宏雄)

 映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。新著「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2024年には33回目を迎えた。

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    事件
    2026年09月16日 20:30

    「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」は、広島カープに大きな衝撃を与えた忌まわしいブツだ。元広島カープの羽月隆太郎氏にこれを譲り渡したとして医薬品医療機器法違反の罪に問われた会社役員・滝口涼介被告の初公判が9月16日に広島地裁で...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    事件
    2026年09月21日 13:30

    沖縄県の新知事、古謝玄太氏の周辺がキナ臭くなっている。9月13日の沖縄県知事選では開票0%で当選確実が出たが、9月16日にX上で「浮島龍美」を名乗る人物が古謝氏の家族の通学先、関係先を特定、拡散。17日になってもネット上の愉快犯が浮島氏の投...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    社会
    2026年09月23日 15:45

    長年、親しまれた「Suicaのペンギン」の後釜は、どのキャラになるのか。JR東日本が進める「Suica」の新キャラクター選びが、思わぬ波紋を広げている。現行のペンギンは2001年のサービス開始から、カードや駅の案内でおなじみの存在。今回の交...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/9/15発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク