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記事全文を読む→「連続企業爆破事件」桐島聡の逃亡生活と生き方の「根っこ」を見た/大高宏雄の「映画一直線
投開票から2週間近くが過ぎても、参院選の余韻はいまだ残る。そのさなか、桐島聡を描く「『桐島です』」を見に行った。都内・新宿の映画館は、ほぼ満席であった。
参院選の結果には、多くの人が考え込んだに違いない。この国に今、何が起こっているのかと。「『桐島です』」は、そのことを考えるのに、いいきっかけの作品である。
桐島は周知のように、1970年代に頻発した連続企業爆破事件で指名手配され、半世紀近くにわたる逃亡生活を送った。そして2024年1月、病院で息を引き取った。
逃亡先での朝は、目覚まし時計が鳴って始まる。歯磨きをし、顔を洗い、仕事場に向かう。勤務先は飛び込みで採用された工務店だ。
仕事が終わったら、銭湯に行く。ひと癖ある仕事仲間やアパートの隣りの男との関わり合い、スナックでの様子なども描かれていく。
こう書くと、役所広司が主演した話題作「PERFECT DAYS」を思い出す人もいよう。役所が演じた役柄のように、本作もまた、桐島の日常と「生き方」を描く。ところがその内実は、まるで違う。
長年、勤め上げている会社に、髪を染めた若者が入ってきてから、年を重ねた桐島の内面がストレートに出てくる。彼の「生き方」の基本は、ここであった。
若者は仕事先で同じ土木作業をしているクルド人に対して、差別的な態度を示す。その時、桐島の表情が一変する。若者は「怖い顔だ」と驚く。「怖い」理由がわからないのだ。
場面が変わって、この若者が社長に猛然と抗議するシーンがある。ある作業員が仕事を無断で休んだことを、社長が容認していたように見えたからだ。
若者は「在日(先の作業員のこと)と何か関係あるのか」と社長に迫るや否や、同室にいた桐島は大声で「関係あるわけないだろ」と言い、外に出て「あーっ!」と張り裂けんばかりの叫び声を上げる。
演じた毎熊克哉は、桐島の魂が乗り移ったかのように、全身全霊を込めた素晴らしい演技を見せる。涙が出た。差別的な言動に対して、許せない「信条」を桐島は持っていた。
「思想」とは趣が違う。魂が乗り移ったとは、そうした意味である。これが彼の逃亡生活の根っこにあり、「生き方」そのものでもあった。
冒頭、(別の組織が実行した)三菱重工爆破事件で多くの人を犠牲にしたことに、桐島らが批判的な見方をするシーンが出てくる。桐島らはその後、爆破を計画し、実行もするが、人のいない場所を選ぼうとしていた。
ここに映画の立ち位置があるように見える。搾取される者の側に立つが「無差別暴力やむなし」とは言っていない。当時の「闘争」が、全面的に肯定されているわけではない。
70年代に桐島と行動をともにした宇賀神寿一(奥野瑛太)が、ラストに再び登場する。桐島への追悼の文章の中で「やさしさを組織せよ!」と書く。
「やさしさ」とは何か。本作は桐島の「生き方」を描くことで、それを問うているのだ。人を排除せず、いかに思いやることができるか。差別といかに向き合うか。
桐島は生き抜いた。監督の高橋伴明、プロデューサー兼任で出演の高橋惠子も、「映画」で戦い抜いている。今年、出色の作品である。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2025年に34回目を迎えた。
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