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記事全文を読む→奇跡の脱北起業家〈第2回〉なぜ彼女は「平壌冷麺」と海を渡ったのか(3)受験と「カンニングペーパー」
そんなヨンヒは自宅から歩いて通える北城中学(6年制)の4年に編入する。
「恥ずかしかったけど、先生に打ち明けたんです。ピアノは10年やりましたが、勉強はわかりません。でも、平壌医学大学に行きたいって。先生はきょとんとした顔をしました。英語はまったく知らない。足し算も引き算もできない。授業のとき、黒板を見ても数字しか目に入らない‥‥」
テスト結果が廊下に張り出されるが、いつも下から2、3番目をうろうろ。両親は娘のため、学校の先生に報酬を払い、家庭教師に招く。毎日、下校後、食事をすますと夜7時から日付が変わるまで文字通り、猛特訓が続いた。
乾いたスポンジが水を吸収するようにヨンヒの成績は伸びた。わずか半年で1番になり、受験を控えた6年には難関大学も狙えるまでになった。ところが、国から突然、ヨンヒの学年は女性の医大受験が認められないとのお達し。
「ショックでした。パパは医者にならないのは運命だよ、と慰めてくれた。それで自宅近くにある張哲九平壌商業大学の経理学部に志望先を変えたんです。卒業生は平壌の一流ホテルや百貨店、平壌冷麺で有名な玉流館やレストランで働いていて、将来、支配人にもなれる。大使夫人も多いんです」
ちなみに大学に冠された張哲九とは、金日成の抗日パルチザン時代、炊事を担当した女性兵の名前である。
平壌商大一直線! 切り替えの早さがヨンヒの真骨頂だ。母と二人三脚で合格をつかみにいく。予備校などないから、まずは商大の教授にわたりをつけ、入試の傾向と対策を伝授してもらう。報酬は弾んだ。大学教授とはいえ、月給だけでは生活が潤わない。家庭教師にきてもらうのではなく、ヨンヒは目立たぬようキャンパス内の教室に通う。本番までの3カ月間、3人の教授のマンツーマン指導で10年ぶんの過去問をひたすら解いた。得意な理系の数学、物理をはじめ、英語、国語も合格点をクリアしそうだったが、いくらたたき込んでもだめな科目がひとつあった。
金日成、金正日、それに金日成の妻、金正淑の革命歴史である。
「金ファミリーの輝かしい足跡をどれだけ正確に知っているかを試すテストです。もう覚える量がはんぱなくて。金日成がいつ、どこで、どんな演説をしたかみたいなことを問われる。日付まで。お手上げですよ」
国家の振興に寄与する観光、サービス産業をになうべき人材選抜に学力とはほど遠い、棒暗記でしかない科目がいかに無意味か。教授もよくよく理解しているのだろう。とっておきのカンニングペーパーが用意されていたというのだからおもしろい。
「だからわざわざ大学に出かけて受験勉強をしたんです。アハハ」
ヨンヒは屈託がない。
「ゴマ粒ほどの文字で印刷された年表があるんですよ。これを先生が試験会場のトイレに隠しておく。前日に先生から連絡がくる。何階の何番目のトイレの上を見ろ、と。10分の休憩時間にトイレに入ると、折りたたんだ紙があって、さっとスカートのポケットにしまう。教室では3人の先生が見回っているんですが、顔見知りの先生にサインを送る。わからないなあって表情で。すると先生が前へすーっと歩いていくの。そのすきに年表で答えを確認するんです」
合格発表は母が大学まで見に行った。ヨンヒは海州で食堂を営む祖母の家で吉報を待った。
「ママから電話がかかってきた。ヨニちゃん(※ヨンヒの愛称)、だめだった、また来年だねって。そしたら、おめでとうって。冗談言って、驚かすの。アハハ」
受かったのは90人だった。決め手はカンニング作戦だけではなかったようだ。
「北朝鮮の大学はトップが総長、その下に党秘書がいて、さらに組織秘書がいる。総長も党秘書もコロコロ変わりますが、組織秘書だけは20年間そのまま、影の実力者でした。その組織秘書の奥さんがママの知り合いで、お金を包んだそうです」
鈴木琢磨(すずき・たくま)ジャーナリスト。毎日新聞客員編集委員。テレビ・コメンテーター。1959年、滋賀県生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒。礒𥔎敦仁編著「北朝鮮を解剖する」(慶應義塾大学出版会)で金正恩小説を論じている。金正日の料理人だった藤本健二著「引き裂かれた約束」(講談社)の聞き手もつとめた。
写真/初沢亜利
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