社会
Posted on 2025年10月18日 10:00

“テレビ・新聞が報じないリアル告白”私は「クマ襲撃」からこうして生き延びた

2025年10月18日 10:00

 クマの「襲撃」による人身被害が後を絶たない。今や住宅地を当たり前のように闊歩するばかりか、なんと、住居内に平気で侵入する例も。はたして、クマの本当の力とは、どのようなものなのか。被害者たちの貴重な証言を掲載する。

 はるか昔からクマと共生してきた日本人だが、ここ数年はそのバランスの取り方が難しくなってきたようだ。全国各地でクマによる人間への「襲撃」が報じられるようになり、残念ながら命を失った人もいる。また、辛うじて逃げ延びた人たちもその心身に負った傷は決して浅くはない。

 8月26日に発売された「ドキュメント クマから逃げのびた人々」(三才ブックス)には、8人の体験談が掲載されている。まずはその一部を紹介しよう。

 22年9月上旬、金井誠一さん(当時72歳)が群馬県沼田市の利根川支流で渓流釣りをしている最中、視界の端で黒い影が動いた。

「最初はイノシシかなって思ったんですよ。1メートル50センチくらいあって、結構でっけぇなとは思ったけど」

 その影は、藪の中へと姿を消し、斜面を上がっていった。普通ならそこで警戒心が働いてもおかしくない。しかし、日常の延長にあった“いつもの釣り場”という安心感が、わずかでも判断を鈍らせたのかもしれない。金井さんは、気にせずそのまま釣りを始めた。しかし、この日は釣ちょう果かがなく10分ほどで竿を納めた。「いつも、釣れなかったらすぐ引き上げる」とこの日も車へ戻り、トランクを開けたその瞬間だった。

「真後ろからガバッとやられたんだ。声なんか聞こえなかったよ。音もにおいもない。本当にいきなりだった。でもやられた瞬間に『クマだ!』と思ったな」

 背後から突然、鋭い爪が振り下ろされ、右側の頭部と眉上が切り裂かれた。一瞬にして、大量の血が噴き出した。キャップをかぶっていたことが衝撃を少し和らげたのかもしれないが、あと数センチずれていれば、目を直撃していた可能性もあった。

 一撃を受けたあと、金井さんは反射的に振り返ったが、そこにはもう姿はなかったという。それでも金井さんは、「クマだった」と確信している。

「でけぇ爪だよ、皮膚があんな裂け方をするのは。爪の痕も角度も位置も、手(前脚)でやられたって感じだったな。あれはクマしかいねぇべ」

 襲撃された後、意識はしっかりしていたが、痛みはさほど感じなかったという。その場に倒れることもなく、金井さんはタオルで傷口を押さえながら車に乗り込み、自らハンドルを握ってその場を離れた。

 一度、自宅に戻って病院に向かった金井さんは、眉上の骨の一部が陥没、皮膚の裂傷は複数に及び、計7針を縫うことに。医師からは、2週間ほどの入院を告げられたという。

 文字どおり一瞬のコンタクトで、人間にこれだけの被害をもたらすクマの力。その破壊力は想像を絶すると言えよう。

 22年7月、北海道紋別郡滝上町のケースはまさに修羅場だった。有害鳥獣駆除の活動をする猟師の山田文夫さん(当時69歳)は、32歳の時に狩猟免許を取得したベテラン。この日も牧草地に連日のように二頭のヒグマが出没していると知らせを受け、山田さんと猟師Sさんの二人で駆除に向かった。

 山田さんは牧草地の内側にいる一頭を、Sさんは牧草地の崖っぷちにいる一頭に向かって同時に発砲。しかしSさんの弾は外れ、驚いたクマは崖下へと逃げていった。山田さんの弾は狙ったクマの横腹に当たった。クマは一度倒れたが起き上がり、牧草地の淵まで歩いていった。そして、淵ぎりぎりの場所に座り込んだ。

「座り込んでいるほうを二人で同時に撃ったら、その反動で崖の下に転がって落ちたんだわ」

 崖の高さは6〜7メートルほど。急いで駆け寄って下を覗くと、一部分のササ藪がガサガサと動いていた。山田さんはSさんを崖の上にとどまらせ、崖の中腹まで下りて足場を固めた。しかし、動きはない。

「今度こそ死んでいるな」と思った山田さんは、クマの死骸を確認するため、さらに崖を下りていった。

 ササ藪を進んでいると、Sさんの「山田さん! 動いているわ!」という叫び声が聞こえたか聞こえないうちに、突然ササ藪から半矢(手負い)のクマが正面から襲いかかってきた。

 その瞬間、山田さんは仰向けに倒され、持っていた銃はどこかに飛ばされてしまった。気づいたら鼻先が顔の前にあり、クマの開いた口や牙が見えたかと思うと、顎に食いつかれた。実際にはその前に頭を爪で引っかかれ、その傷はかなりの深さだった。

「どう噛まれたかなんて、順番は分からん。ただクマとくっついて格闘して引っ張り回されたな。顎にがっつり噛みつかれてたから、下の入れ歯は割れて、口は裂けたしね。目のところも引っかかれてさ。クマの爪痕がまぶたの上と下に残っているんだけど、眼球をえぐられなくて良かったよ。腕や腹も噛まれながら、足で蹴ったり手で殴ったりと抵抗したな」

 そして、偶然にも繰り出した右拳がクマの口の中に入った。鼻先にあったクマの顔が離れ、一気に視界が広がった。クマの顔の他に腹や脚までが見えた。

「最初に一発、弾が当たった横腹から、腸が飛び出ているのが目に入ったんだよね。思わず左手をのばしたらうまいこと届いて、その腸をグッと掴んで思いっきり引っ張ったらベロベローッと出てきてね」

 腸を引きずりながら離れていったクマは、山田さんと格闘した場所から数㍍の場所で絶命していた─。

 環境省による今年度の「クマ類による人身被害」は、9月末時点で99件。被害人数は108人で、5人が命を落としている。こうしたクマ襲撃被害について本書の製作に携わった「風来堂」の今田壮氏が話す。

「最終的には、人エリアとクマエリア、間にバッファーゾーン(緩衝地帯)を設ける『棲み分け』を目指すべきだとは思います。ただし、クマの生息地は顕著に広がり続けているため、今すぐには不可能。まずは人エリアに出てきたクマを押し戻す必要がある。駆除には一定のルールが必要で、人エリアに出てきたクマに限定し、各地域で駆除上限を設けること(人身被害の原因のクマは別枠)。駆除の方法として銃でしか対処できない場合もありますが、箱罠(エサを入れた檻)がかなり有効なことを各地で聞いていますので、積極的に活用すれば、的確に駆除できるはずです」

 被害は秋に増加する傾向にあるが、これ以上、増えないことを祈るばかりだ。

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