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記事全文を読む→生誕90年 立川談志と最後の弟子〈初めて書く「イリュージョン」な日々〉(1)この横柄で酷い人は何なんだ?
話は談吉がまだ談吉でなかった頃にさかのぼる。北海道帯広市の中学生時代、「立川談志」の強烈な言動をテレビで見たのが最初だ。その後、図書館で落語CDを借り、“らくだ”の噺に脳が焼ける衝撃を受けた。以来持ち続けた積年の思いは、談志への弟子入りとして爆発する。青年になった、かつての中坊は、談志邸の前に立った──。
2008年1月3日、初めて談志のもとを訪れた時のことだ。
「俺は今、死について考えてるんだ」
初対面の相手に胸の内を淡々と口にする姿に驚くと同時に、一言も聞き漏らすまいと耳を澄ませた。
落語家に弟子入りするにはどうするのか。皆さんは寄席や落語会の楽屋口で出待ちをし、お目当ての師匠の眉間にレーザーポインターを照射して、ライフル銃で狙撃するのだろうと思っているかもしれないが、そうではない。しっかりと礼儀を弁え常識を重んじなくては、弟子になることはできない。当然私もそうだった。
常識を重んじインターネットで談志の住まいを検索し、煎餅屋さんと鯛焼き屋さんがあるマンションだとしっかりと突き止めた。
日時も重要なポイントだ。その師匠の機嫌がいい時を狙うのが、確率を上げる決め手となる。事前調査によると落語立川流は例年、1月2日に新年会を行うとわかった。つまり次の日はとっても機嫌がいいということになる。ましてお正月、三が日に怒る日本人はいないはずだ。決行日は礼儀を弁え1月3日。作戦開始の時刻はおやつの時間である3時頃となった。今になって思えば阿呆みたいな考えだが、根っから阿呆なのだからどうしようもなかった。
振り返れば中学生の頃だ。ビートたけしさんがバイク事故で生死を彷徨った時、ほとんどのタレントさんが口を揃えて可哀想だとか心配だとコメントしていた中で、一人だけ「死にゃあよかったんだ」と言い放ったサングラスのおじさんがいた。画面の端に立川談志とテロップがあり、この横柄で酷い人は何なんだろうと思ったのが最初の印象だ。
私は子供の頃からお笑いが大好きだったが、北海道帯広市という果てしない大空と広い大地のそのなかで育ったので、生のライブや寄席演芸には全く縁がなかったし、そもそもその存在すら知らなかった。ともするとテレビのお笑いが全てだと思っていた節があった。当時コントや漫才、バラエティー番組を貪るように観ていたが、偉そうに振る舞ってる人はギリギリ大橋巨泉さんぐらいしか把握していなかった。
それから何年かコントや漫才の映像(VHS)を観続けているうちに、落語という芸能に辿り着いた。全く知識がなかったが、古典芸能といえば図書館だろうと思い行ってみると、案の定落語のCDがずらりと並最初に目にとまったのが、“立川談志”の文字だった。
正直あの偉そうなおじさんが落語家だとは微塵も思っていなかった。落語家で知っていたのは笑点に出ていた方だけだったので、立川談志という人がどんなことを喋るのだろうかと興味を覚え、CDを視聴した。とはいえ初心者。落語の“ら”の字もわからない。とりあえず動物が出てくる落語なら優しい話に違いないと、選んだ演目は「らくだ」だった。
服を着たウサギやリスがラクダにオムライスを焼いたりするような、シルバニアファミリー的な話を想像していたが、全く違った。内容は町内で“らくだ”と呼ばれる無法者が死んで、その兄貴分が弔いをする際に通りすがりの気の弱い男を捕まえて、死骸を抱えて踊らせたりして脅しながら、香典や酒肴を集めてくるというとんでもない話だった。初めて聴いた落語というものに脳が焼かれるような衝撃を受け、以来落語と談志に興味を持たないわけにはいかなかった。
立川談吉(たてかわ・だんきち)1981年12月14日生まれ。北海道帯広市出身。2008年3月に立川談志に入門。11年6月に二ツ目昇進。12年4月に立川左談次門下へ。18年7月に立川談修門下へ。26年3月1日に真打昇進「立川談寛」襲名予定。
写真/産経ビジュアル
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