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記事全文を読む→侍ジャパン天覧試合「天皇一家の退席時にガムを噛んで腕組み」の村上宗隆に浴びせられた「人間性を疑う」は正しいか
わずか数秒の映像が、一晩で燃え広がった。
WBCの天覧試合。天皇皇后両陛下と愛子さまが退席される場面で、村上宗隆はガムを噛み、堂々と腕を組んでいた。その隣で大谷翔平と鈴木誠也が拍手をしている。
この対比映像が切り取られ、SNSに流れた瞬間、物語は出来上がる。大谷=正義、村上=不敬。「人間性を疑う」「球界の恥」というコメントがどんどん積み上げられていった。
天覧試合には伝説がある。1959年の巨人×阪神、伝統の一戦だ。昭和天皇が観戦される中、長嶋茂雄はサヨナラホームランを放った。当時の選手たちが「天覧試合だから」と振る舞いを変えたという記録はない。全力でプレーすること自体が、敬意の表現だった。
あれから67年。敬意の示し方は、時代とともに多様化している。問題はその多様化に、ファンの目線が追いついていないことかもしれない。
メジャーリーグのベンチを見れば、選手がガムを噛む光景は日常だ。スポーツ心理学の領域では、咀嚼動作がストレスホルモンの分泌を抑え、過緊張を和らげる効果があることは広く知られている。極限の集中を要する場面ほど、こうした身体的なルーティンが機能する。三冠王を獲り、WBCの修羅場を知る村上がその実践者であることは、むしろ自然な話といえる。
だが日本では、それが「不敬」に見られることがある。なぜか。村上が普通の試合でガムを噛んでいても、誰も何も言わない。天覧試合だから、炎上してしまった。問われているのは野球のマナーではなく、「特別な場」で何をすべきか、という話だ。
批判した人々を「古い」と切り捨てるのは簡単だが、天皇の御前では居住まいを正す。それは多くの日本人が自然に持つ感覚であり、否定しきれるものではない。ただ、その感覚を他者に強制する時、話は変わってくる。
一方、選手たちは変わっていく。国際舞台を渡り歩く中で、科学的なアプローチを実践の道具として吸収してきた。見る側の規範はゆっくり育ったぶん、変化には時間がかかる。炎上の正体は、悪意でも憎しみでもない。選手の「当たり前」とファンの「当たり前」が、気づかないうちにずれていた。それだけのことだ。
今回の炎上で興味深いのは「ずっと好きだったのに、一気に嫌いになった」という声が目立つことだ。応援していたからこそ、幻滅の度合いは大きくなる。期待が大きかったぶん、数秒の映像は致命的に映った。これはもはやマナーの問題ではなく、ファンが選手に抱く「理想像の裏切られ方」の話だ。
村上に「村神様」を求めていた人ほど、数秒の映像に傷ついた。プレーで感動させてくれればいいのか。それとも振る舞いまで含めて「正しい選手」であることを求めるのか。
ひとつだけ確かなことがある。次の試合で村上がホームランを打てば、同じ口が「村神様」と叫ぶ。この炎上が何だったのか、誰も振り返らない。
(ケン高田)
アサ芸チョイス
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