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「腹が、減った‥‥」
輸入雑貨商を営む井之頭五郎が、営業先で立ち寄った飲食店で食事を楽しむ人気ドラマ「孤独のグルメ」。約3年半ぶりにレギュラーシーズンが放送され、6月19日に最終回を迎えた。
仕事中は食べることしか楽しみがないのは、刑事も同じだ。本連載の第13回で「刑事メシ」をテーマにした際には、各所轄署に独自の「旨い店リスト」が存在していることを取り上げた。そこで今回は、夏にぴったりの名店を紹介したい。
まずは06年8月、台東区の不忍池で男性の遺体が発見され、「上野公園ボート池男性殺人事件」の捜査がらみから始めよう。有力な目撃証言もなく、「これは長期戦になる」と直感。事実、現在も未解決のままだ。
張り詰めた空気の中、所轄の捜査員に教えてもらったのが、上野警察署の目の前に店を構える老舗蕎麦屋「翁庵」だった。地道な聞き込み捜査で乾ききった胃袋を満たしたのは、名物の「ねぎせいろ」。熱々のつけ汁の中にたっぷりの長ねぎと、旨味が凝縮されたイカのかき揚げが潜っている。その濃いつゆが細麺の蕎麦と見事に絡み合う。さらに通の楽しみ方として、つまみの「油揚甘辛煮」を追加で注文。つけ汁に浸して蕎麦と食べれば、口の中に甘辛いだし汁が広がり、最高のごちそうだった。
同じく台東区の蕎麦屋で外せないのが、浅草の「角萬」だ。ファンの間で「蕎麦界のラーメン二郎」と称され、こぞって注文するのが「冷やし肉南ばん」。蕎麦の常識を覆す圧倒的な極太麺は力強い歯ごたえで、胃袋を鷲摑みにされる。竜泉(台東区)に店があった頃は、「刑事で知らない奴はいない」と言われるほど警察官の御用達だった。俺も同僚に連れられ、20回以上は通い詰めたものだ。
夏に食べたくなる中華麺では、目黒区にある町中華「鶏舎」の「冷やし葱そば」はシーズンを迎えると行列必至の人気ぶり。山のような白髪ねぎと、香ばしいねぎ油の風味が細麺に絡み合い、のどごしさっぱりの味わいに仕上がっている。
この酷暑を乗り越える究極のスタミナ源といえば、JR神田駅前の「うな正」だ。俺がいつも頼んでいたのは「うな丼ダブル」。ふっくら柔らかなうなぎと甘辛く香ばしいタレは、一見すると普通のうな丼だが、白飯の中からもう一枚のうなぎが姿を現す二層構造で、ボリューム満点。何より、国産の職人焼きを2000円台で味わえるのは本当にありがたい。刑事の財布事情を考えればちょっとした贅沢だが、ここ一番の勝負の前に食べたい逸品だ。
捜査中の食事は「早くて、旨くて、安い」が基本であり、瞬時にガソリンとなる麺類や丼ものが多かった。特に俺の場合は仕事帰りも酒を飲まず、3食がすべて外食。
ひたすら「旨いメシ」を追い求めた結果、人一倍のグルメになっていた。これも一種の「職業病」なのかもしれないが‥‥。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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