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記事全文を読む→金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第4回「シリコン製パッドから外交官まで税関との果てなき攻防を明かした」〉(3)外交特権で「税関スルー」
一方、税関側の対策も洗練されていった。定期的に同じ便に乗る人物をシステムで検知し、その便に搭乗している全員を対象に検査を強化する。
「運び屋を変えても、監視役は一緒じゃないですか。だから、その便ぜんぶがいかれちゃうようになったんですよ」
リクルーター役の男は言った。
渡航履歴の問題は、Mも肌で感じていた。
「そこで、なるべく監視役を変えるようにしたんです。けれど、それも渡航履歴でバレた」
グループを複数作り、便をずらして回す方法も試みた。しかし使える人間には限りがある。
行き詰まった密輸グループは、今度は運び屋の「見た目」を変えることに活路を求めた。
車椅子に乗った障害者に運ばせた。スーツケースの車輪部分に金塊を仕込む手口も使われた。高齢者や主婦たちを運び屋に使うケースも増えた。
「俺がよく使ったのは、1人2人は捕まることを見越して10人連続で走らせる手口でしたね」
平塚は言った。よもや主婦や障害者が運び屋で、まして列を成しているとは思うまい。
それでも最後まで摘発されなかった運び屋がいた。Mは言った。
「香港の永住権を持ってる日本人なんですけど、お金持ちで、ビジネスクラスにいつも乗ってた」
仕事の関係で香港を頻繁に往来する富裕層だ。旅費は会社の経費で落ちる。1回4キロを運び続けた。
「その人も最終的には辞めちゃいましたけどね。周りがどんどん捕まってるから、怖くなってきたって」
そんな折、思わぬ手口が舞い込んできた。
外交官を使った密輸─にわかには信じがたい話だが、Mは平然と言った。
「本当のことですよ」
外交官パスポートで「公務」として日本に入国する場合、治外法権が適用され、税関検査を受けない。Mは、あるアフリカ系大使館の外交官と組んだ。
香港経由で金を外交官に渡し、その人物が日本に持ち込む。理論上、どれだけの金塊を持ち込んでも咎められない。
「普通に小さいスーツケースに入れて手持ちで運ぶだけで、税関はスルーでしたね。ただ‥‥」
問題はカネ、分け前の要求だった。それが際限なく膨らみ、利益が食い潰されかけた。外交特権を盾に足元を見て、要求をエスカレートさせてくる。
Mはほどなく手を引いた。
「使えるものは、何でも使う」─それが、あちらのモラルらしい。
17年、財務省は「ストップ金密輸緊急対策」を発表した。税関・警察・国税庁の連携が深まり、単なる水際対策から密輸グループ全体を狙った組織的な摘発へと軸足を移していった。
翌18年4月には改正関税法が施行される。罰金の上限はそれまでの500万円から1000万円へ引き上げられ、密輸した金の量が多ければ多いほど罰金も跳ね上がる仕組みになった。
さらに組織犯罪と認定されれば、金塊そのものが没収される。かつては「払えば戻ってくる」だった押収品が、永遠に手元に戻らなくなった。
金塊没収の契機になった事件がある。16年6月、マカオから約5億円相当の金塊112キロをプライベートジェットで国内に運び込もうとした、前代未聞の密輸劇だ。
主役はヤクザ。半グレたちの裏で組織が、より大胆にシノギをしていたのだ。
次回、その全貌を追う。
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。
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