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Posted on 2026年11月01日 20:00

気になる著者に直撃!〈本郷和人〉皇室ゆかりの名宝に刻み込まれた日本人が受け継いだ感性まで解説

2026年11月01日 20:00

「カラー版 皇室のお宝」
中公新書ラクレ/1540円

 皇居三の丸尚蔵館が建て替え工事を終えて、11月3日にグランドオープンする。同館は伊藤若冲の「動植綵絵」、円山応挙の「牡丹孔雀図」をはじめとする日本の名宝を所蔵している。本書では同館の収蔵品を中心に皇室ゆかりの絵画や工芸品などに対して、歴史学者の本郷和人氏が解説を加えている。だが、美術史の専門家ではない本郷氏が、なぜ名宝について執筆しようと思ったのだろうか。

「その疑問を抱く読者は多いと思います。美術史の専門家は、作品の筆致や技法を中心に見ますが、僕はその作品が生まれた由来を見る。名品には様々なエピソードがあります。単純に美術品としての評価や解説をするのではなく、その作品が生まれた背景を読み解く。そこが本書の肝です」

 皇室をテーマに選んだことにも深い理由がある。

「皇室には、慶事や行幸などの際に美術品が数多く献上されてきました。それだけに超一級の作品がズラリとそろっています。一方で皇室は政治や外交、信仰、儀礼の中心でもあったわけですから、日本人が受け継いできた感性が名品に刻み込まれているのです」

 皇室のお宝を本郷氏独自の視点で紐解くことで、日本の歴史だけでなく日本人に息づく感性まで明らかにしようという試みなのだ。

 とはいえ、決して堅苦しい内容ではない。そこは本郷氏が独特のユーモアを交えて解説しているので、非常にわかりやすい。

 例えば、鎌倉時代後期の「蒙古襲来絵詞」。日本史の教科書に掲載されることが多い、元寇の様子を描いた作品であるが‥‥。

「この絵巻物を描かせたのは肥後出身の御家人・竹崎季長です。戦地に一番乗りを果たした彼は、手柄を挙げながら正当に評価されていないと不満を抱き、鎌倉へ赴き、恩賞奉行の安達泰盛に直談判を行いました。結果、肥後国の荘園を取り戻し、馬も与えられた。色鮮やかな鎧兜などリアルな戦闘描写を伝える作品として知られますが、泰盛から受けた御恩を後世まで記録として残したかったのではないでしょうか」

 なんと御家人個人の思惑が色濃く反映されていたとは驚きである。また、昭和に「日出処日本」を描いた横山大観については、

「横山大観は東京美術学校の1期生として岡倉天心の薫陶を受け、日本美術院の創設にも参加した近代日本美術史上の大立者です。こうした名誉や権威の箔付けが彼を別格の存在として高めているように感じます。国内外で評価にかなりの差があり、海外ではさほど有名ではありません。葛飾北斎が高い評価を受けているのとは対照的ですね」

 手厳しい指摘だが、美術史家からは聞けない解説だろう。さらに「唐獅子図屏風」で知られる狩野永徳に関しても、狩野派の代表的画人だけに「卓越した技法」と認めつつも、長らく権威を保ててきたのは「営業上手だったから」と容赦ない。だが、信長や秀吉への接近ぶりは知られたところで、納得の解説とも言える。

「作品を見て純粋に『すばらしい』と感じるのが理想ですけど、少し知識があれば見え方が変わってきます。例えば、気になる女性と美術館に行った時に、作品にまつわるウンチクをさりげなく語れば、あなたを見る目は確実に変わるでしょう。本書をそのためのネタ本にしてもらえればうれしいです」

〈原悟平〉

本郷和人(ほんごう・かずと)1960年東京都生まれ。東京大学・大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し、日本中世史を学び、東大史料編纂所で「大日本史料」第五編の編纂にあたる。史料編纂所教授を務め、26年に定年退職。現在は藤田医科大学特命教授・リベラルアーツセンター長。

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