いずれにせよ、北朝鮮のミサイル発射を待つばかりの今の状況は、09年に地下核実験に成功している北朝鮮による「核の脅威」新時代が始まる前段階─とも言うべき緊迫した状況だ。
そのうえで、冒頭の防衛省元幹部のA氏の警告である。いったいなぜ、技術的には迎撃能力を持った自衛隊が、迎撃不能だというのか。A氏が核心を明かす。
「実は、自衛隊法にのっとれば、『専守防衛』を順守する建て前の自衛隊は領空侵犯がなされないとミサイルを迎撃できないことになっているんです。となれば、日本列島の海岸からわずか12海里(22・2キロ)の領海が侵犯されたことを自衛隊が察知し、迎撃命令が下されるまで、約10~20秒はかかる。PAC3のミサイル速度が秒速約1000メートルと言われていますが、秒速約700メートルで飛んでくると言われる北朝鮮のミサイルは、22キロを30秒ほどで飛んでしまう。領空侵犯したのを確認してから撃っていたのでは、まず間に合わないんです」
この点について防衛省に確認してみると、広報室の担当者はこう話した。
「国際法上は、ミサイルが他国から発射され、日本の領空を侵犯することが予想された場合、発射した国の領海を越えてミサイルが公海に入った時点で迎撃は可能です」
しかし、A氏は一笑に付してこう語るのである。「これは自衛隊ではなく海上保安庁が直面したケースですが、一昨年の中国漁船による尖閣諸島沖の事件の例を見ても、領海が侵犯されてから初めて海保は行動に移せたでしょう。あれと同じで、確かに国際法上は公海上にミサイルが到達した時点で迎撃できるかもしれません。しかし、自衛隊法では、あくまで領海や領空が侵犯されてからでないと、何もできないんです」
それでは法の壁のために、ミサイルが日本領に着弾するのをみすみす指をくわえて見ているのに等しいと言わざるをえないではないか。
ある軍事ジャーナリストは過去の取材経験を振り返りながらこう話す。
「以前、防衛省の現役の文官に『有事法制が整わない現状で、他国の脅威が迫っている場合、法を順守していては間に合わない不測の事態が起こったらどうするか』と聞いたことがあった。すると彼は『超法規でやるよう防衛相に進言し、彼がクビ覚悟で決断するのに期待する』と答えた。そうした人物が、省の中枢にいれば、実際にミサイルが領空を侵犯する前から迎撃する決断もありえるんじゃないでしょうか‥‥」
確かに田中防衛相なら、そんな進言があれば、「任せるよ」と、答えてくれそうな気もする。が、A氏が再び否定的な見解を示す。
「昔なら日本とアメリカで示し合わせて国際法を超えた作戦を実行することができたかもしれません。しかし、情報技術が発達した現在では、防衛省や自衛隊が実行した作戦の記録を隠すことは不可能。
今回のケースで言えば、もしミサイルが領空侵犯をする前に迎撃すれば、その事実は国際的に明らかになることは間違いない。その際の国際的非難を恐れ、結局思い切った行動はできず、手をこまねいている間にミサイルは着弾してしまうんです」
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