社会

池上彰 そうだったのか「10年後ニッポン」(後)(2)

マニフェストのあるべき姿

──ただ、この数年は首相がコロコロと代わり、民主党は政権交代したのに三党合意でもってマニフェストにない消費増税を決めました。国民の政党への不信感が強まっています。

 それはね、海外では2大政党で何度も政権交代をして、ねじれ国会みたいなことはどこの国も経験してきたわけですよ。その時に、まさに今回の三党合意のような話し合いで解決策を探るという歴史を積み重ねてきている。その点、日本は本格的な政権交代は戦後初めてのことだったんです。

──やっと始まったばかりということですか?

 うん、つまり三党合意ができたわけでしょ、対立していても国民のために話し合って法案を作ったわけですよ。私たちはそれを妥協の産物だといいますが、政治ってそういうものなんですよ。そもそも多数党の意見が全て通っていたら議会政治の意味がないじゃないですか。民主主義って多数決プラス妥協なんです。

──近く総選挙が行われることになりそうです。

 はい、次の選挙では間違いなく民主党は負けるでしょう。つまり政権を取ってもちゃんとやらないとすぐに政権を失うんだよということを学ぶわけですよ。

 それから、消費増税の問題でマニフェストを守らなければいけないという議論があるでしょ。これまで日本では、政治家や政党の公約って、できもしないきれい事を並べるだけでした。選挙が終わったらベリッと剥がせる、これこそ“膏こう薬やく”だ、なんてダジャレでは済まないんですがね。民主党はイギリス方式のマニフェストをやろうとしたんですが、そもそもマニフェストとは野党の時に与党になったら必ずこれだけのことをやりますよ、そのための予算はここから持ってきますよ、と実現可能なものを出すものなんです。そして政権を取ったら、定期的にそのマニフェストをどこまで実現したのか、あるいはどこまで実現していないのかを国民に発表する仕組みなんです。

──ですが民主党のマニフェストは空手形ばかりでした。

 最初はそれなりに予算の裏付けがあるものをやっていたんです。例えば子ども手当。配偶者控除をやめて、その分を子ども手当として1万3000円は出せますと計算した。ところが、それを小沢一郎元代表が「おっ、これはいいじゃないか」と財源の根拠もなく倍の2万6000円にしてしまった。つまり選挙に勝てば予算はいくらでも付くとばかり、人気取りのマニフェストになっちゃったんです。

──小沢「生活」代表が、今度は増税反対と言っているのも選挙対策?

 そうそう。2年前にマニフェストの本家のイギリスでね、ブラウン前首相(労働党)が負けて、キャメロン首相の保守党が第1党となりましたが、過半数に達しなかったので第3党の自由民主党と連立政権を組みました。その記者会見では2人の党首が「政策協定を結んだため選挙中のマニフェストと違うことになりました」と国民におわびすることから始まったんです。

──日本でも、野田総理がマニフェストにない増税を謝罪しました。

 つまりマニフェストってそこまで国民に対して責任を持たなければいけないんですよ。でも、状況によって守れない時には素直に国民におわびしなさい、こういう話ですよ。だけど今後、自民党もいいことだらけのマニフェストは作れません。政権を取ったら実現させないといけないんですから。今後はマニフェストが非常に現実的なものになってくるはずです。

──何だか地味な選挙になりそうですね。

 そう、でもそれが本来の姿でしょ、実現できっこないことばかり言うのはおかしいんですよ。政権交代をしてたいへん意味がありましたが、これを2度3度と繰り返すことによって、政治は成熟していく。10年後にはだいぶ大人の議論ができるようになっているかもしれませんよ。

──期待したいです。

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