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記事全文を読む→深作欣二のバイオレンス、薬の副作用で手がパンパン
〈いいぞ、ヤス! 上がってこい、お前は志半ばで死んでいく勤皇の志士だ。どうした、ヤス! 這ってこい! 登ってこい! ここまで‥‥〉【映画「蒲田行進曲」(松竹)より】
新撰組の土方歳三に扮した銀ちゃんは、みごと生死を賭けた「階段落ち」を成し遂げた浪士役のヤスを、階上から必死に鼓舞する。血まみれの顔で落ちた階段から這い上がろうとするヤスに、囲んだ大部屋俳優たちの誰もが涙を抑え切れない。セットのあちこちに置かれたたいまつの炎が、いかにも深作流のクライマックスを盛り立てる。
雪が降る撮影所の外では、実際は銀ちゃんの子ながら、ヤスと結婚した臨月の小夏が「あんた~!」と叫びながら気を失う。2つの物語がクロスして、映画は大団円へと向かってゆく。
風間は、映画の公開後に同じような感想を聞いた。
「撮影所という閉ざされた世界の中で起こる3人の関係性。これが映画に関わる人たちにとっては普遍的な話なんだけど、だけど頑張っていこうって熱いメッセージを送っている。映画で食っていけなくて、辞めて田舎に帰ろうかって人たちが『蒲田──』を観て、もう少し踏ん張ってみようと思った‥‥そんな話を何人にも聞きました」
憧れの大スター・銀ちゃんの子であると知りながら、ヤスは小夏の出産費用を稼ぐために危険なスタントの仕事をいくつもこなす。小指を立て、大きな腹をさするジェスチャーをしながら何度も言う。
〈コレが、コレなもんで〉
平田は、当時の状況と役が完全に一致していたと言う。
「僕も結婚して子供が生まれたばかりで、はたしてやっていけるんだろうか‥‥と不安があって。そんな時に憧れの深作さんや松坂さんと仕事ができて、夢みたいにうれしかった。これで俳優を『職業』としてできる気がしました」
公開された映画は角川特有の「大量スポット」ではなく、口コミで評判となり、大ヒットを記録。同年度の「日本アカデミー賞」では作品賞を手始めに、深作が監督賞、平田が主演男優賞、風間が助演男優賞、松坂が主演女優賞など、ほとんどの部門で“最優秀”の栄誉に輝いた。
以降も風間と平田は「人生劇場」(83年/東映)や「上海バンスキング」(84年/松竹)で深作に呼ばれ、またそれぞれに実力派の俳優として羽ばたいていく。
そんな2人の前に深作が最後に顔を見せたのは、亡くなる前年だった。明治座の「居残り佐平次」(02年5月)は、2人が12年ぶりに共演した公演だったと座長の風間は言う。
「サクさんが1人で観にいらしてくれて、僕と平田にとっては恩師だから、楽屋で正座して迎えましたよ。薬の副作用で手がパンパンに腫れて、杖をつかなければ歩けなかったけど、本当に役者を大切にする監督だと思いました」
平田もまた、深作が最後に元気だった姿と会えたことに感激した。それから8カ月後に訃報を聞くことになったが、2人ともに「撮影が最も生き生きしていた」という映画好きの顔しか思い浮かばない──。
〈文中敬称略、次回は萩原健一〉
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