芸能

百恵と淳子、セリフは1回2行まで

「この子は絶対に伸びていくから、早めに主役にしたほうがいいよ」

 脚本家のジェームス三木は、プロデューサーの春日千春に“ジャブ”を放った。ただ進言するだけでなく、百恵の出番を多くするようなシナリオに書き換えていったという。

 それは、70年代のドラマ史に金字塔を打ち立てた〈赤いシリーズ〉の第1作たる「赤い迷路」( 74 年/TBS)でのことだ。三木の提案に、春日は別の意味で不安を隠せなかった。

「まだ演技経験が乏しかったので、ホリプロ側と『1回のセリフは2行まで』という取り決めを交わしていたんです。ところが、セリフを楽々と覚えるようになり、最初の規制は消し飛んでしまった」

 三木のように百恵の将来性を買ったシナリオ陣の“後押し”もあったはずだ。役どころは妻を殺された宇津井健の娘であるが、実は出生の秘密が隠されている。後に韓流ドラマが「お手本」にした設定が始まっている。

 さて三木は、まだ15歳だった百恵にどんな魅力を感じたのか─。

「僕は新人の役者には『甘さと哀愁』が必要だと思っている。やがて『ツヤと深み』が備わり、選ばれた者だけが『凄味』を身につけられる。その点で彼女は、男がどうにかしてあげたくなる『哀愁』を身にまとっていた。実際の百恵はそう弱くないけど、そう見えるということが大スターを予感させたね」

 同ドラマでは百恵の叔父として松田優作が出演している。今となっては貴重な組み合わせだが、優作は役柄に納得がいかず、プロデューサーの春日に食ってかかる場面を三木は目撃している。

 春日によれば当初の設定より役柄が後退したため、優作は「最後は死なせてほしい」と訴え、その演出もみずから担当した。まだ女優経験の浅かった百恵が、こうした“役者の業”をどうとらえたか興味深い。

 さて当時の「金曜9時」は、先に始まっていた田宮二郎の〈白いシリーズ〉と、百恵の〈赤〉が交互に放映され、しのぎを削っていた。白の制作が松竹、赤が大映テレビであり、一種の代理戦争でもあったが、やがて百恵の赤が年間を通してオンエアされるようになる。

「やっぱり本物のスターになっていったし、世の中の多くが“赤いシリーズの山口百恵”を観ていたということ」

 そう絶賛する三木は、百恵・友和コンビの映画「ふりむけば愛」(78年/東宝)の原案・脚本も手掛けている。15歳の幼い百恵を発見した三木は、この映画でコンビの「初のベッドシーン」を描いた。同作の監督は大林宣彦だが、その縁で後日談がある。

「彼女が引退してから、大林の家のホームパーティで夫婦そろって一緒になったんだよ。大スターだったことをまったく感じさせず、控え目でいい奥さんになっていたね」

 その姿は、男から見たら理想像じゃないかと三木は思った。

カテゴリー: 芸能   タグ: ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「メジャーでは通用しない」藤浪晋太郎に日本ハム・新庄剛志監督「獲得に虎視眈々」
2
不調の阪神タイガースにのしかかる「4人のFA選手」移籍流出問題!大山悠輔が「関西の水が合わない」
3
2軍暮らしに急展開!楽天・田中将大⇔中日・ビシエド「電撃トレード再燃」の舞台裏
4
新庄監督の「狙い」はココに!1軍昇格の日本ハム・清宮幸太郎は「巨人・オコエ瑠偉」になれるか
5
【鉄道】新型車両導入に「嫌な予感しかしない」東武野田線が冷遇される「不穏な未来」