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記事全文を読む→武一族「天才騎手のスパルタDNA」(6)「アウト」になった裁決室証言
事件の顚末はこうだ。
舞台となった東京競馬場の芝2000メートルは1コーナーのポケットがスタート地点。いいポジションを取ろうと、2コーナー目がけて揉み合うように各馬が殺到するのはいつものことだったが‥‥。
18頭立ての13番だったマックイーンが2コーナーで内側に切れ込んだためにアクシデントが起きる。接触を避けようとしたプレクラスニーの江田照男はさらに内側に寄せるしかなく、そのアオリを食ったのがプレジデントシチーの本田優。落馬寸前になり、「他の馬とぶつかったから落ちなかった」(本田)ほどだった。さながらドミノ倒しに近い影響を受けた4、5頭の中には、岡部幸雄のメイショウビトリアも入っていた。
好位から抜け出したマックイーンは、2着プレクラスニーに6馬身の差をつけてゴールイン。後方からの競馬で全てを見ていたカリブソングの柴田政人は「豊、ウイニングランはダメだぞ」と忠告しているが、勝利に酔う豊には聞こえなかったのか、スタンド前までマックイーンを走らせ、ファンの声援に応えている。
「裁決室に呼ばれた各騎手が何があったかを話すと、豊はアウト。いつもは寡黙な岡部が部屋を出るや、『豊は失格。あんなレースをされたら競馬にならないよ』と激怒した」(前出・デスク)
マックイーンはGⅠ史上初の18着降着となり、豊は6日間の騎乗停止処分を受ける。豊のショックは並大抵ではなく、ターフに復帰しても40戦以上、未勝利のスランプに陥った。この事件があったからではないだろうが、マックイーンは93年の宝塚記念まで4年連続GⅠを制覇しながら、年度代表馬に選ばれることはなかった。本誌競馬連載で「武豊番」として予想を担当する片山良三氏が言う。
「菊花賞以外、活躍したのは春に集中したせいもあったからでしょうが、『マックイーンがかわいそうだよ』と豊が嘆いていました」
父・邦彦氏はキレイでフェアな乗り方をする騎手だった。豊もその姿を手本に、まったく同じ乗り方で菊花賞を制するなど、「師の教え」は着実に受け継がれていた。そのDNAが唯一にして最大のミスを犯したのがこの天皇賞であり、豊にとって初の屈辱だった。「外枠が不利な東京2000メートルでは、2コーナーまでにいいポジションを取らないと、あの長い直線もあり、勝負にならない。冷静な豊には珍しく、周囲が見えないほどに熱くなり、焦っていたのです。同時に、天才ともてはやされ飛ぶ鳥を落とす勢いだった豊はこの頃、あのウイニングランでわかるように有頂天になり、慢心も芽生えていた。それを先輩騎手がいさめたのです」(厩舎関係者)
ペナルティを食らって沈む豊だったが、邦彦氏は「大人の関係だから」と、若い豊にあえて手を差し伸べず立ち直るのを見守った。豊を再生させたのもまた、そのスパルタDNAだったのである。
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