政治

歴代総理の胆力「鳩山一郎」(1)吉田茂は「宿命のライバル」

 鳩山一郎が政界トップの座に就くまでは、常に吉田茂との対峙、“確執史”に彩られていた。二人は、「宿命のライバル」と言ってよかったのだった。

 鳩山の父・和夫は東京帝国大学教授。日本初の法学博士として、弁護士、東京専門学校(現・早稲田大学)校長を務めた一方、東京市議、衆院議員、最後は衆院議長のイスに座り「政界屈指の英才」と言われた人物であった。

 その血を引いた「サラブレッド」の一郎も頭脳明晰、東京帝国大学を卒業後は、父と同様やはり政治の道に入った。44歳で政友会の幹事長、その政友会総裁だった田中義一が総理大臣に就任すると内閣書記官長(現在の官房長官)として入閣、その後も犬養毅、斎藤実の両内閣で文部大臣を務めるなど、時代に迎合せぬリベラルな政治家として頭角を現している。

 ちなみに、鳩山家の秀才としての血筋は、のちに共に国会議員となる一郎の息子・威一郎、その子・邦夫にも引き継がれ、共に東大は首席卒業となっている。

 その一郎は昭和10(1935)年には親戚にあたる美濃部達吉の「天皇機関説」が問題化するや、堂々「中央公論」に“擁護論文”を執筆、軍部からにらまれるほどのリベラルぶりだった。

 そうした中で、昭和12年7月、外遊した鳩山は、時に駐英大使だった吉田茂と会い、ここで互いのリベラル性を認め合う関係となったのだった。

 吉田は貴族趣味、度胸もある。秘密主義的なところはあるが、駆け引きに長けていた。開けっぴろげで人の好い鳩山とは凹凸相和すということか、親交を結ぶに至った。やがては、互いに「俺」「貴様」と呼び合うほどの仲になっていったのだった。

 その後の太平洋戦争開戦から間もなく、あっさりとした性格の鳩山は翼賛体制を嫌い、軽井沢と熱海にある別荘に引っ込み、政治からは一歩距離を置いてしまったのだった。しかし、終戦とともに上京、非翼賛議員として政界復帰する一方で、どこか気が合った吉田を、今度は政治の舞台に引っ張り出したのだった。

 時に自由党総裁だった鳩山は、政治に不案内な吉田の議員とのパイプ作りに手を貸し、一方で政治資金の面倒までみた。吉田も鳩山自由党の傘下に入ることになったが、しかしこれを機に二人の確執が顕在化していくことになる。一方で、ここから鳩山の「不運」が続くことにもなるのである。

 外遊中に書いた旅行記などを対象にされて、まずはパージ(公職追放)にあい、これが解除となる2カ月前には脳出血で倒れるという不運が重なった。加えて、追放に際して自由党の後継総裁に吉田茂を選んだのだが、鳩山は追放解除で政界復帰を果たしたもののすでに政権の座に就いていた吉田は、今度は鳩山を煙たがりだしていたのだった。

 例えば、外交姿勢一つとっても、対米関係重視で臨む吉田に対し、リベラル路線の鳩山には違和感があった。吉田もリベラルではあったが、したたかさでは人の好い鳩山より一枚上、吉田が鳩山を裏切る形で二人は「犬猿の仲」となっていったのだった。

■鳩山一郎の略歴

明治16(1883)年1月1日、東京生まれ。日本自由党結成、総裁に。公職追放・解除後、民主党結成、総裁を経て、内閣組織。総理就任時71歳。日ソ国交回復共同宣言調印後、総辞職。昭和34(1959)年3月7日、狭心症のため死去。享年76。

総理大臣歴:第52~54代1954年12月10日~1956年12月15日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

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