政治
Posted on 2020年05月07日 09:55

歴代総理の胆力「海部俊樹」(2)ぶれる「軸足」、大きな「振幅」

2020年05月07日 09:55

 政権を降りたあとの海部の政治行動の「振幅」は、それにしてもあまりに大きかった。

 例えば、海部が政権を降りたあと、自民党は、社会、新党さきがけの両党を抱き込み、当時の社会党委員長・村山富市を首班候補に担ぐという“奇策”に出た際、あれだけいいように政権を左右された小沢一郎の“誘い”に乗ったのだった。

 時に、小沢は自民党竹下派内の主導権争いの末、同派を離脱して非自民党系としての8党派を束ねていたが、この8党派で自民党の推す村山に対抗しての首相に海部を誘ったということだった。海部はこれに乗って自民党を離党、結果的に村山の前に一敗地にまみれたのである。

 さすがに、こうした海部の動きには、自民党から猛烈な批判の声が出た。自民党総裁(総理)を経た者が離党、しかも対抗勢力の首相候補になるなどは前代未聞であったからだ。怒った自民党は、党本部総裁室に飾られている歴代総裁の額から、海部のそれをはずしてしまったものだった。

 しかし、海部の「振幅」の大きさはこれにとどまらなかった。その後、保守新党が旗揚げされるとこんどはこちらに入党、その保守新党が自民党に合流することになったことで、さらにまた自民党に戻るといった具合だった。ここでは政治家としての「軸足」は見えず、振り返れば小党のリーダーとして巧みな遊泳術を発揮、「バルカン政治家」と言われた師匠の三木武夫に似ていなくもなかった。

 しかし、三木とこの海部の師弟、異なっていたのは良くも悪くも三木には、海部にはない信念の強さとしたたかさが目立っていたということであった。

 海部は平成21(2009)年8月の総選挙の落選、それをもって政界を引退した。

■海部俊樹の略歴

昭和6(1931)年1月2日、名古屋市生まれ。中央大学法学部から早稲田大学法学部に編入学。昭和35(1960)年11月、衆議院議員初当選。福田内閣・第2次中曽根内閣でともに文相。平成元(1989)年8月、宇野退陣を受けて自民党総裁、内閣組織。総理就任時58歳。現在89歳。

総理大臣歴:第76・77代 1989年8月10日~1991年11月5日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

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