「あれ、ジュテちゃんの体重が、前回から500グラムも減っていますよ」
「何キロありますか」
「4.6キロから4.1キロ。人間なら5キロ減ったのと同じですからね」
2021年9月16日、S動物病院のアキコ先生の言葉が、47日間の闘病の始まりだった。
抱っこしたジュテはちょっと太ったかなと思うくらいズッシリしていたので、意外だった。
「ちょっと調べてみた方がいいかもしれませんね」
「血液検査ですか」
それまでも血液検査は定期的にやっている。
「いや、エコーとか」
「エコー?」
突然言われても、ピンとこない。飼い猫のジュテはまだ、12歳。この時点では普段と変わらない元気な様子で、これから起きる事態などうかがい知ることはできなかった。
動物病院を出て自宅に戻り、妻のゆっちゃんにはすぐに、先生の話を伝えた。今から思えば、先生の言葉に胸がザワザワし、動揺していたような気がしなくもない。すぐに言わなければという焦りが…。
「そういえば最近、ジュテの食が細い気がしていたの。あまり食べてないかも」
ゆっちゃんは、キャリーバッグから顔を出したジュテを心配そうに見ている。そこに弟猫のガトーがやってきて、ジュテの前でなぜかジッとしている。
「お兄ちゃん、500グラムも痩せちゃったって」
と、ゆっちゃん。我が家に生後1カ月あまりでやってきたガトーは今や、9キロ近くまで肥大している。ジュテのご飯も横取りするような食いしん坊で、このところ、体格の差が際立ってきていた。
「検査してもらった方がいいかな」
「今から電話して、午後にでもやってもらったら」
僕はすぐに病院に電話して予約し、12時過ぎ、ジュテをキャリーバッグに入れ、自転車のカゴに乗せて、S動物病院に向かった。
S動物病院との付き合いは10年以上になる。我が家に来てすぐに去勢をしてもらい、毎年のワクチン注射、定期的な爪切りも全てここでやってもらっている。爪切りは深爪が怖いのと、診察台に乗せると体重も計測してもらうことができるので、健康チェックも兼ねてのことだ。この日も爪切りのついでだった。
ジュテは病院でもおとなしい優等生で、されるがまま抱っこされ、コンピュータの光だけの暗い診察室の中で体を横たえ、時々こちらを見るようなしぐさをしている。
しばらくして診察を終えると、疲れて元気がないのか、心なしか不安げな表情のジュテを抱きかかえ、キャリーバッグに入れて帰宅した。
午後、連絡を待った。14時半、若い女性獣医師が「すぐに来られますか」という。こういうセリフの時は人間の場合でも、悪い予感がするものだ。僕は再び自転車で病院に向かった…。
(峯田淳/コラムニスト)