芸能

追悼・菅原文太 “未公開肉声”ドキュメントから紐解く「反骨の役者人生」(11)ズッコケキャラが大成功した理由

20150122o

 文太にすれば、任侠映画でもギャング映画でもない、キンキンとコンビを組んだトラック運転手の2人組道中記、アクションあり、涙あり、笑いありの人情喜劇で、ちょっと下品でスケベ、おっちょこちょいだが、義理人情に弱い熱血漢という、およそ今まで演じたことのない限りなく三枚目に近い役どころとなる異色作品であった。

 はたしてその企画が吉と出るか、文太にとっても東映にとっても冒険であったろうが、文太のズッコケキャラは大成功、思いもかけない大ヒットにつながり、熱狂的な星桃次郎ファンを生んだのだった。

 文太もこの一番星の役をかなり楽しみ、大いに乗って演じたようで前述のインタビューで、

「『仁義なき戦い』の広能昌三と180度違うキャラに戸惑いはなかったのか?」

 の問いに、

「ああ、別に。映画っていうのは、そういうところがおもしろいんで。本物の極道をやるわけじゃないから。すべてフィクション。何でもできる。むしろ映画なんてのは、(日常の)スレスレギリギリのところをちょっと破ってスピードアップしたりね‥‥そういうことを絶対できないお客さんにしてみれば、ハラハラしながら必ず目的を達成するおもしろさに一時の発散をするんじゃないのかな」

 と答えている。

 メガホンをとった鈴木則文監督も、文太は星桃次郎役を、「実に生々と人間くさく涙と笑いで熱演怪演した」として、

「俳優菅原文太のフトコロの深さは長年付き合っていたわたしでも、いつも新しく発見されるものがあった。

 人間の劣情のなかに浮かび上がるピュアな魂の光芒。報いられようと報いられまいと、無償の情熱をもって突っ走る男の真情を演じて、菅原文太の右に出る役者は日本にはいない」(鈴木則文「新トラック野郎風雲録」ちくま文庫)

 と絶賛している。

 この鈴木則文と文太とはともに昭和8年(1933年)生まれの同期、自宅も近くで仲が良かった。2人が初めて監督と主役として組んだのは「関東テキヤ一家」シリーズ(5本中4作が鈴木監督)で、よほどウマが合ったのか、「下品こそこの世の花」との名言をのこした鈴木則文と文太とは「トラック野郎」でもあうんの呼吸を見せた。

 鈴木と共同脚本の澤井信一郎で造型した主人公の星桃次郎は、文太にとっても、ことのほか気に入りの特別のキャラとなったようだ。

「“一番星桃次郎”っていうのは、きっと一生オレの相棒だという愛情はあるよ。今、農業やっているだろう? 作った野菜に『一番星』っていう名前をつけているし。なかなか売れないけどな(笑)。まあ、ひとつの愛嬌で、喜んでくれるお客さんもいるから、そういう形で今でもやっているとも言えるし」

 とは、文太の弁であった。

 この桃次郎の「トラック野郎」は正月と盆に公開され、渥美清の「男はつらいよ」寅さんと並ぶ風物詩的なシリーズとなり、国民的映画となった。毎回マドンナが登場し、桃次郎が惚れて失恋する趣向も寅さんと同じだった。前述の一昨年11月のインタビューで、印象に残っているマドンナとして文太が挙げたのは、夭折した女優夏目雅子(6作目の登場)であった。

◆作家・山平重樹

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
神宮球場「価格変動制チケット」が試合中に500円で叩き売り!1万2000円で事前購入した人の心中は…
3
永野芽郁の二股不倫スキャンダルが「キャスター」に及ぼす「大幅書き換え」の緊急対策
4
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
5
「島田紳助の登場」が確定的に!7月開始「ダウンタウンチャンネル」の中身