《神輿が勝手に歩けるゆうんなら歩いてみないや、おう》
第1作で、権謀術策を用いて部下を使い捨てにする山守組長との対立を深める若頭・坂井。その2人の対立が決定的になった場面で、坂井が山守にぶつけるセリフである。ヤクザの世界では親分が絶対。それが基本であるはずなのだが、「仁義なき戦い」ではそのタブーさえ超えてしまう。それ故の「仁義なき─」なのだ。
美能氏の手記によれば、現実でも山村組長=山守と佐々木哲彦若頭=坂井の対立は深刻であったようで、佐々木が山村を一度は駆逐することに成功。しかし、その後巻き返した山村が佐々木とほかの幹部らの対立を煽り、佐々木殺害に成功している。
《盃がないけん、これで腕切って血すすらんかい》
こちらも第1作。若き日の広能が獄中で、若杉寛(梅宮辰夫)から舎弟としての盃を受ける際、神酒の代わりにお互いの血を啜り合って契りとする。カタギだった広能が、極道の世界に足を踏み入れることになる名シーンだ。
《わしを生かしといたら、おどれ等あとで一匹ずつブチ殺しちゃるんぞ》
第2作「広島死闘篇」でのメインキャストである山中正治(北大路欣也)が、千葉真一演じる大友勝利・大友組組長らから壮絶なリンチを受けた際に投げつけるセリフ。身を預けた先の村岡組長の姪(梶芽衣子)との悲哀が印象に残る山中の執念と暴力性をうまく表したセリフと言えよう。
《言うなりゃあれらは、オメコの汁で飯食うとるんで》
同じく「広島死闘篇」で存在感を魅せる大友の、なんとも強烈すぎるセリフであるが、その大意はこういうことだ。
博徒・村岡組と対立する「テキヤ」である大友は、前親分から稼業違いでの争いを嗜められる。それに対して、売春婦からみかじめ料を取る村岡組をくさして投げつけたのがこの言葉なのだ。思わず納得、ニヤリとしてしまう名セリフである。
《ありゃあ、お前、泣いちょるん? 泣かんのぉ、泣かんのよ》
第3作「代理戦争」の中で、山守にいびられて啜り泣く打本に対して、追い打ちをかけるように慰める(?)山守組長。彼の狡猾でしたたかではあるが、どこかユーモラスな部分を、金子信雄がみごとに演じたシーンだ。いわゆる悪役でありながら“影の主人公”として存在感を遺憾なく発揮する山守組長にはファンも多い。
その山守のカウンターパートとでもいう存在が打本組長だが、
《いずれ山守を潰しちゃるけん、そん時は真っ先にそっちを的にかけるけんの》
と、キレ気味に広能に対して言い放ったこともあった。もっとも、それに対し広能が凄むとすぐへこむところが、打本の打本たるところだろう。
最後は全作中でも屈指の名セリフだ。
《広島極道はイモかもしれんが、旅の風下に立った事はいっぺんもないんで。神戸の者言うたら、猫一匹通さんけ》
第4作「頂上作戦」において小林旭演じる山守組若頭・武田明が、掛け合いにきた神戸・明石組幹部・岩井信一(梅宮辰夫)に対して叩きつける挑戦状だ。このセリフで当時“にわか広島弁”になった人も多かったという。もっともなエピソードである。
この「仁義」シリーズから放たれるエネルギー、男たちの美学、ダイレクトに響く言葉の数々は、オンタイムを知らない世代にも、きっと語り継がれていくことだろう。