今からさかのぼること64年前の1961年。東宝がゴジラ、ラドンに続く怪獣キャラクターとして世に送り出したのが「モスラ」だった。
モスラは、太平洋某所に浮かぶ、ジャングルに覆われた絶海の孤島「インファント島」で、島民に崇拝されてきた巨大蛾の守護神。この島は某国の水爆実験場として用いられていたのだが、島民は島にある巨大な胞子植物から出る「赤い汁」を飲んだり、あるいは体の表面に塗ることで、放射能汚染から身を保っていた…。
むろん、これは東宝が作り出した想像上のものだが、そんなモスラに姿形がソックリな節足動物の化石が、カナダ西部ブリティッシュコロンビア州のロッキー山脈地帯に広がる麓で発見され、生物学者らを驚かせている。
見つかったのは約5億600万年前のカンブリア紀中期に、この地域で生息していたとみられる古代生物の新種で、カブトガニやワラジムシの遠縁にあたる「ラディオドンタ類」(すでに絶滅)に属する節足動物だった。
通常、節足動物の目は2個あるいは4個だが、この生物は頭の真ん中に大きな「中眼(ちゅうがん)」と呼ばれる「3番目の目」が存在した。これで光の変化を感じ取っていたとみられている。
爪は昆虫や甲殻類同様、獲物をつかむための鉤爪状の付属肢だが、体の左右にはパドル状のヒレが付いており、体の後方には呼吸器官を備えていた。
この新種は、その奇抜な姿と泳ぎ方から、当初は「海の蛾(シーモス)」の愛称で呼ばれていたが、その後、風体があまりにも日本の怪獣映画に登場する「モスラ」に似ていることから、学名に日本語発音をそのまま用いた「Mosura」を採用。最終的に「モスラ・フェントニ」と命名されることになった。
この生物の研究論文はイギリス王立協会の「Royal Society Open Science」誌(2025年5月14日付)に掲載されている。
ちなみに、モスラは前作の「ゴジラ」「ラドン」といった暴力性を前面に出した従来の怪獣映画に比べ、ファンタジー性を強調した異色作で、欧米でも多くのファンを持つ。ただ、いくらなんでも5億600万年前に生息した生物の正式名称に、その名がつけられるとは…。往年の東宝映画関係者は、さぞや驚いているに違いない。
(ジョン・ドゥ)