かつては出張族や旅慣れた人々にとってのステータスでもあった「プライオリティ・パス」。世界中の空港ラウンジを無料で利用できる便利なサービスだったが、近年はその価値が急速に低下しつつある。
発端となったのは、楽天プレミアムカード。2025年からラウンジ利用回数を年間5回に制限し、レストランなど一部施設での無料利用を打ち切る方針を発表したのだ。これに三菱UFJニコスやJCBなどが追随し、まるで「改悪ドミノ」と言える状況が広がっている。
その背景にあるのが、空港ラウンジを「無料バイキング会場」のように使い倒す、一部のインフルエンサーの存在だ。「プライオリティ・パスで1日何軒のラウンジを回れるか」「無料ご飯だけで空港生活」といったタイトルの動画がSNS上で拡散され、「ラウンジホッピング」と呼ばれる行為が一部で流行した。
ひとつの空港内で複数のラウンジをハシゴし、朝から晩まで飲食サービスを利用し続ける。その極端な使い方を真似する一般ユーザーが増え、中にはなんと「ラウンジで風呂だけ入って出る」「飯だけ食って5分で退店」「空港に行く目的はラウンジ飯」などといった利用法を堂々と発信する例も見られるようになった。
クレジットカード業界関係者はこう語る。
「ラウンジ1回の利用ごとにカード会社が負担するコストは意外と高く、特にレストラン系は単価が跳ね上がります。1人で何度も使われたり、同行者を無料で連れて行かれたりすると、ビジネスとしては完全に赤字になります」
本来、プライオリティ・パスは出張や旅行の快適性を高めるためのサービスだった。それが「裏技」や動画のネタとして使い倒されるようになり、制度そのものの持続が難しくなってしまったというわけだ。一般ユーザーからは「レストランが突然、使えなくなった」「年会費の意味がなくなった」と不満の声が上がっている。
「誰でも使える」サービスは同時に、「皆で守る」サービスでもある。利便性の裏にあるコストとモラル、そのバランスが問われている。