阪神タイガースの岡田彰布前監督(現・オーナー付顧問)によるプロ野球解説が冴え渡っている。刻々と移りゆくスリリングな試合展開を見極め、「次に起こるコト」を的確に言い当てる眼力は、まさに「神がかり的」だ。
名将として鳴らした岡田氏の目下の活躍の舞台は、NHKの地上波やBSで実況中継される阪神戦。直近で言えば、5月10日に甲子園球場で行われた阪神×中日戦でも、独特の岡田節を随所に交えた「神解説」が、あまたの野球ファンを唸らせた。
圧巻だったのは、1対0と阪神リードで迎えた、6回裏の解説だった。
実はこれに先立つ5回裏、阪神の7番・坂本誠志郎から始まる攻撃に対して、岡田氏は大胆にも「ココは3者凡退でかまわない」と断言。そのココロは「1番の近本光司から始まる6回裏には必ず、チャンスがめぐってくる。近本から好調のクリーンナップへと続く打線を、あえて分断させる必要はない」という読みだと推察された。
はたせるかな、6回裏は先頭打者の近本がセンター前ヒットで出塁し、中野拓夢がバントで2塁に送って追加点のチャンス到来。続く森下翔太はセカンドゴロに倒れたが、この場面で登場した4番・佐藤輝明の打席についても、岡田氏の神解説が炸裂した。
ここで岡田氏はNHKの野球中継で1試合に一度、勝負どころで使うことのできる「勝負眼ボード」を提示した。フルカウントとなった時、「佐藤は外目に目付けをしている。佐藤を打ち取るにはシュート回転のフォークボールしかない」と指摘したが、中日バッテリーは外角低めのストレートを選択。それが外角のベルト付近の高さに甘く入り、佐藤は左中間に2塁打を放って、阪神は決定的とも言える追加点をモノにしたのだ。
この日、もうひとりの解説者として出演していた元中日ドラゴンズ監督の与田剛氏も試合終了後、「ズバズバと岡田さんが言うように試合が進んでいった。さすがですね」などと語って、岡田氏の神解説に舌を巻いていた。
世に「プロ野球解説者多し」といえども、「次に起こるコト」をズバリと言い放つ解説者は、意外に少ないのではないか。いささか厳しい物言いになるが、「目の前で既に起きたコト」をただなぞらえるだけの解説、いわゆる「後出しジャンケンの解説」なら素人でもできる。
いずれにせよ、岡田氏のような神解説は、野球中継を劇的に面白くする。今後も岡田氏の歯に衣着せぬどんでん節を楽しみにしたい。
(石森巌)