日本列島には巨人軍の長嶋茂雄名誉終身監督を追悼する声が溢れているが、その代名詞といえば、カンピュータだった。データ、セオリーを無視した感性野球といわれるが、第二次政権時の元番記者は、
「長嶋さんは時折、カンピュータとあんまりバカにされると、腹が立つこともあったんですよ」
というのも、実はミスターはデータを重視していた。しかも独特な方法でデータを分析していた。ペナントレース中は試合後、自宅やホテルに戻ると翌日の自軍の先発投手、相手打線のデータを頭に入れ、ベッドに入る。頭の中で野球ゲームのように一球一球、シミュレーションを行う。9回までいくと、汗びっしょりになる。自らバットスイングをするわけでもないのに、長嶋流シミュレーションで呼吸、脈拍が荒くなるのだ。そしてもう一度、シャワーを浴び、就寝する。
「僕はね、ゲームを一度やってから、また同じ試合に入るわけだから。初めてゲームに入る皆さんにはカンピュータに見えるかもしれませんが、僕には結果がわかっているから。思い切った采配がそう見えるんでしょうね」
番記者にそう誇らしげに語ったことがある。
ただ、いつもシミュレーション通りにいくとは限らない。そうなった時はやはり、ひらめきの采配が出てくる。
球場の雰囲気、投手、打者のフォルムから、「長嶋監督」の勝負の流れを読む力は独特のものがあるが、周囲が追いつかない。投手コーチから次の投手を助言されて「それでいこう」とベンチを出るが、主審には別の投手を告げることがしばしば。ひどい時はブルペンで投球練習をせず、ベンチに座っていた投手が登板したこともあった。
長嶋流シミュレーションの精度、確率が高ければ、巨人は毎年、優勝していたであろう。
(健田ミナミ)