秋風が心地よく吹き抜け、家飲みが一段と楽しくなる10月。仕事終わりの晩酌や週末のリラックスタイムに「いつもとはひと味違う、極上の酒の肴を楽しみたい」と思ったらどうするか。もちろん酒場へ繰り出すのも悪くないが、自宅のキッチンで手軽にプロ顔負け...
記事全文を読む→〈立川談志「最後の弟子・立川談吉」が書く「最期の時」〉第2回(1)家元、元気なの?元気ではない…
談志が死んだ──誰にも漏れていなかったはずなのに、どこから嗅ぎつけたのか、斎場には大勢のマスコミが群がっていた。談吉は生前の師匠の言葉を思い出す。「俺が死んだ時は黄金餅のお経でいい」。噺は覚えていないが、中に出てくるお経は覚えていた。金魚ぉ~金魚ぉ~。小声で唱える談吉だった。
2011年11月22日。この日はご親族の方がお別れをする日と伺っていたので、師匠の元を訪ねることはなかった。
小僧は立川幸之進兄さんにいただいたお仕事で、福祉施設での落語会に行っていた。幸之進兄さんは談幸師匠のお弟子さんで、今でも大変お世話になっている。温厚で優しい人でお酒が入ると人格がガラリと変わるタイプの芸人だ。誰かの不幸やしくじりを肴にして、悪魔のごとく甲高く笑いながら上品にお酒を嗜む姿を見るたびに、なんて粋な人なのだろうといつも感心をしている。当時は立川流にいたのだが、色々あって現在は落語芸術協会に所属している。
「家元どう、元気なの」
「まあ元気ではないですね」
「そうだよね、心配だね」
実は昨日死んじゃいましてなんて言えないが、噓もつきたくないのでお茶を濁した。幸之進兄さんは人との距離感や空気を読むのが上手な人なので、何かを感じたのかすぐに話題を変えてくれた。
「今日何やる」
「しわい屋、いいですか」
「いいよ」
「しわい屋」はケチな人がよりケチな人にケチの極意を教わる噺だ。10分くらいの短い噺なので使い勝手が良い。兄さんは「転失気」だったか。
正直言うと、この日のことはあまり覚えていない。なので自分がしわい屋をやったかどうかも正確ではない。どんなに思い出そうとしても何も出てこない。私にとって空白の一日なのだが優しい幸之進兄さんのことだ、会が終わった後にきっとお食事に誘ってくれたに違いない。
兄さん、あの時は豪勢なスッポン料理とキャビアの煮っ転がし、大変ご馳走様でした。
立川談吉(たてかわ・だんきち)1981年12月14日生まれ。北海道帯広市出身。2008年3月に立川談志に入門。11年6月に二ツ目昇進。12年4月に立川左談次門下へ。18年7月に立川談修門下へ。26年3月1日に真打昇進「立川談寛」襲名予定。
写真/産経ビジュアル
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