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記事全文を読む→寺脇研が選ぶ今週のイチ推し!〈山本五十六のカリスマ性は虚構。陸海軍の歴史を覆す真実に迫る〉
「虚構の昭和史 海軍善玉論、石原莞爾名将論の陥穽」
保阪正康・戸髙一成・大木毅・著(角川新書/1166円)
昨年は「戦後80年」ということで、先の戦争に関する報道や書籍、映画、ドラマなどが数多く登場した。もちろん、今年の夏も8月15日を中心に戦争回顧の動きはあったけれど、昨年ほどではなかった。
だが、その代わり、こうした本が世に出たのは喜ばしい。もし昨年だったら、いささか憚られる内容なのだ。なにしろ、副題にあるように、これまで通説になっていた、陸海軍の歴史を覆すような話が満載で驚かされる。小学生の頃に初めて戦争の歴史に興味を持ち、60年以上にわたってさまざまな文献を読んで学んできたわたしの抱く「常識」が、すっかり吹っ飛んでしまった。
昭和史に関する莫大な数の著書を持つ保阪正康を中心とする3人の著者が、その時代を生きた約4000人に及ぶ当事者たちへの取材を基に、確かな論拠を示して鼎談を繰り広げる形で詮議する。通説に対する異説レベルではなく、歴史の真実に鋭く迫っていく。
では、なぜ虚構が成立し得たのか。後世の人間が歴史を創作したり捏造したりできるわけがない。生き残って戦後に証言した軍人たちの中にしか犯人はいないのだ。動機は、軍を美化するつもりか、自分を偉大に見せたいか、犯した責任を軽くしたいか。いずれにしろ、巧みに虚言が組み立てられる。
海軍善玉論や、独裁的な東條英機首相に逆らって、理性的で深い世界観を有していたという石原莞爾名将論を筆頭に、真珠湾攻撃を成功させた連合艦隊司令長官・山本五十六のカリスマ性、特攻隊作戦立案・実行の過程など、さまざまな虚構が次々と暴かれていく。この辺り、さながら探偵たちの調査結果を聞く感じだ。
そうした嘘の証言に基づいて作られた小説や映画によって、それらは通説として広く流布されていく。三船敏郎や役所広司が山本五十六を演じたように、主人公はどうしても立派に描かれるので強く印象に残る。だが、美化せず本当の姿を知ることでこそ、戦争の愚かさやそれを回避する知恵の重要性を考え得るのだ。それゆえ、著者たちの論調は手厳しくなる。
ことに、戦後に人気を博して国会議員となった陸軍の辻政信、海軍の源田実、政財界のキーマンとなった陸軍の瀬島龍三に対しては、辛口批判を浴びせる。同時に、最終章では「平和国家の忘れもの」と題して、うやむやにされてしまった戦争責任や自衛隊の成立過程、今後の専守防衛の在り方へまでも議論は至っていく。
戦後80年を過ぎ、実際に戦場へ出た方々がいなくなっていく現在、虚構に惑わされるのでなく、冷静に現実を見据えて、戦争と平和を考えていく必要がある、と痛感させてくれる重要な提言だと受け止めた。
寺脇研(てらわき・けん)52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。東大法学部卒。75年文部省入省。職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。「ロマンポルノの時代」「文部科学省 『三流官庁』の知られざる素顔」「昭和アイドル映画の時代」、共著で「これからの日本、これからの教育」など著書多数。
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