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記事全文を読む→江上剛が選ぶ今週のイチ推し!〈日常の違和感を見逃さない91歳の作家が紡ぐ超短編集〉
「掌より愛をこめて 阿刀田高さいごの小説集」
阿刀田高・著(新潮社/2090円)
「掌編小説」の名手、阿刀田高さんの最後の小説集。これは読まなくてはなるまい。阿刀田さんは91歳。寄る年波には勝てず、アイデアが枯渇してきたため筆を置くらしい。
「掌編小説」とはいえ、読み応え十分である。最近の人は、TikTokなどの影響で長い映画を鑑賞するのが苦手らしい。小説も同じだ。本書はその意味で若い人にもオススメではないか。
どの「掌編小説」も、ハッキリ言って怖い。帯に「忍び寄る死の気配」と書かれているが、阿刀田さんご自身も死を意識されているからなのだろうか。
「ささいな出来事」は、友人を毎夜、その母が訪ねてくるという話だ。朝になると重い引き戸が開いているのだ。「お袋が来て、そっと俺の寝顔を見て、そのまま閉め忘れてしまう」と友人は語る。
主人公の「私」は妻を亡くしていた。友人の話を聞き流していたが、毎朝、リビングに続くドアが開いていることに気づく。単に引き戸などの建付けの具合が悪くなっただけかもしれないが、友人や「私」の情景を想像すると、「怖!」である。
主人公の「私」は阿刀田さんかもしれない。最愛の妻を亡くされているから‥‥。この話を阿刀田さんの実体験だとすれば、さらに「怖!」。私たちは日常、目に入るものを見過ごし、何も気にせずに暮らしている。昨日の続きが今日であり、今日の続きが明日というように。
しかし、鏡の中に映る自分の老いた顔、わずかに開いたドアなどに、ふいに違和感を覚えることはないだろうか。私たちは、その違和感を意識の外に追いやることで、毎日を過ごしているのだ。もし、その違和感を深く追求すれば、私たちは、陥穽に落ち、抜け出せず、異世界に迷い込み、平穏で平凡な日常が破綻してしまう。
ところが阿刀田さんは、そんな違和感を見過ごさない。想像力を駆使し、それらを不安、恐怖に満ちた「掌小説」に仕立て上げる。日常の違和感を感じ取り、追求しつつ、陥穽に落ちることもなく、長生きされていることは、大いに尊敬に値する。
「狐つき」という最後に掲載された「掌小説」。そこで阿刀田さんが小説家になったのは「狐につかれたからだ」と言う。お陰で今まで八百編も書くことができた。そこでお稲荷さんにお礼参りに行った。その時、狐が落ちた。そのためストーリーが浮かばなくなった。そこで筆を置く決心をしたらしい。
しかし「嘘八百」と小説家はみんな嘘つき、信じちゃいけません、と、大いにとぼけている。まだまだ書く気でいるようだ。新たな狐がついたようだ。続編の「さいごのさいごの小説集」を楽しみに待つことにしよう。
江上剛(えがみ・ごう)1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。77年、旧第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、人事部や広報部を経て、支店長などを歴任。02年に『非情銀行』で作家デビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。
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