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記事全文を読む→金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第9回「トクリュウの資金を動かす装置。相対屋が明かした精錬所ルート」〉(1)22億円分の取引で逮捕
トクリュウこと匿名・流動型犯罪グループの背後で資金洗浄などを請け負うのが「相対屋」だ。その男はマネーロンダリングだけでなく、金塊の闇取引にも関わっていた。出所不明の金塊はどうやって現金に化けたのか。精錬所ルートのカラクリを明かす。
電話の向こうに、保坂がいた。「プライベートジェット密輸事件の発端が、実は自分なんです」と語った、その男だ。
「みんな、あれで痛い目見てるんで」
あの事件の後日談だ。
組織も半グレも、多くが金の密輸からは手を引いた。だが保坂は、まだそのそばにいる。ただし、運ぶ側ではない。
相対屋(あいたいや)─密輸された金が、最後に現金へ変わる場所だ。
相対とは、仲立ちを挟まない当事者同士の直接取引のことだ。江戸では、幕臣が互いの屋敷を合意の上で交換することを「相対替(あいたいがえ)」と呼んだ。現代の相対屋は、それを暗号資産でやる。
きっかけは規制強化だった。
2017年4月、仮想通貨交換業者が登録制になり、あわせて本人確認が義務づけられた。正規の取引所でビットコインを円に換えれば、名前と口座が残る。足がついては困る金を持つ者には、不都合な法改正だ。
そこに現れたのが、相対屋だ。本人確認なしで、一対一で換えてくれる。
25年11月、特殊詐欺の被害金の資金洗浄に関わった疑いで、警察庁サイバー特捜部と広島県警の合同捜査本部が、会社役員の男(34)と山口組系組幹部の男(44)を逮捕した。会社役員は「相対屋」として、無届けの暗号資産取引を約3年で約280回、取引額にして約22億円分、請け負っていた。警察は、その多くが犯罪に絡んだ金とみている。
相対屋は、匿名・流動型犯罪グループ─トクリュウの資金を動かす装置として、当局に注視されるようになった。
保坂が相対屋になったのは、10年近く前だ。入り口は金塊ではなく、オンラインカジノだった。勝ち金を現金に換える3〜5%の手数料商売から始めて、扱うものが広がった。
暗号資産を現金に。現金を暗号資産に。額が大きくなるほど、手順は慎重になる。
5000万円までは手元に置き、億を超える取引はそのつど用意する。客には目の前で暗号資産を送金させ、着金を確認するまで帰さない。最短で4時間、同じ部屋にいる。ホテルだ。
「事務所とかに入れる時は、もっと信用できる相手じゃないといけないんで」
そして、一対一である。
「うちは完全に、こっち側から情報を出さないから」
場所も時間も保坂が決め、その場で渡す。なぜか。
「顧客が叩かれるイコール、自分たちの信用がなくなるじゃないですか」
叩く、とは強盗のことだ。
現金がいちばん集まるのは相対屋のはずだ。真っ先にターゲットになると思うが、さにあらず。現場に出る人間と、カネを持つ人間とを分けてあるのだ。
「そいつが捕まって、拷問されて。ウォレット開かれても、そいつのウォレットにカネが入ってるわけじゃないんで」
集めた暗号資産は、オンラインカジノが買い取る。あとは海外の、保坂の言葉を借りれば「悪いことしてる人たち」へ流れる。
保坂は、自分の仕事をこう呼んだ。
「マネロンとか、今の犯罪収益の移転じゃないですか」
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。
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