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記事全文を読む→ポール・マッカートニーを逮捕した男…伝説のGメン「最後の手記」(2)さまざまな力が働き無かったことに…
ところが、意気消沈していたポールは、警視庁の留置場では他の容疑者と一緒になってビートルズのヒット曲を合唱して、元気を取り戻した。留置場には、終始和やかな雰囲気が漂い、味噌汁と菜食主義者のポールのために用意された野菜類もペロリと平らげてしまった。
おまけに、留置されているポールに色紙を書いてもらった警視庁関係者がいたというのだ。ポールが日本の警察なんてチョロイもんだと思ったのは間違いない。それかあらぬか、次の朝、警視庁から護送されてきたポールが、
「オハヨウ」
と言って取調室に入ってきたのだ。お前、被疑者だろう。思わずカチッときた私は、
「こらっ、『おはよう』じゃなくて、『おはようございます』って言うんだ」
VIP待遇に慣れきっているポールに、ここは司法警察員である麻薬取締官事務所であることを厳しく教えてやった。ポールはけげんな顔をしていた。
実を言えば、この件には千葉県警の「異議申し立て」もあった。事件の現場は成田空港。つまり、千葉県警の縄張なのだ。
ところが、東京の麻薬取締官事務所が持って行くのはいかがなものかというのである。
しかし、ポールが都内のホテルに宿泊することになっていたので、別に問題ないわけだが、この件があって以来、税関から事件が回ってこなくなってしまった。成田空港には麻薬取締官事務所の出張所が置かれていたが、それ以来、閉鎖されてしまった。
そのこともいまいましかった。ポール・マッカートニーは私にとって、ただの有名人にすぎない。しかし、以来「鬼門」なのだ。
彼はビートルズ時代の1965年、エリザベス女王から驚異的なレコード売り上げをたたえられ、勲章を授与された。その時、
「バッキンガム宮殿のトイレでマリファナを吸ってやった」
と豪語した。
サーの称号を与えられたミュージシャン。日本ではベッドが4つ入るうえ、キッチンが設置されているという条件を満たした最高のホテルの部屋が用意された。この最高のVIPの待遇が彼をつけ上がらせた。
逮捕の模様がロンドンで報じられると、抗議やポールの釈放を求める電話が日本大使館に殺到した。
「ポールに非はあるが、手錠をかけ、これ見よがしに引き回すのは行き過ぎではないか」
紳士の国らしく、そんな意見が多数を占めた。
日本でも彼が出国することには関心はあったが、なぜ大麻所持は疑うべくもないのに、捜査に結論を出さないままに、釈放されたのか。実際、当時のメディアもその点には、まったく触れずに釈放と出国の事実だけを伝えていたのだ。
私はといえば、「超法規的措置」によって、釈放、出国できたのかと思っていた。超法規的措置とは、日本赤軍が人質を取り獄中のメンバー釈放を要求した日本赤軍事件が勃発した際、当時の福田赳夫首相が取った措置である。
ところが、あとで知ったことだが、ポールの担当の検事は「入国の事実そのものがない」ことにしてしまったのだ。
私は今でも芸能人を甘やかす検事の措置がよかったとは思っていない。
◆プロフィール 小林潔(こばやし・きよし) 元厚労省関東甲信越厚生局 麻薬取締部捜査第1課長 1942年千葉県生まれ。拓殖大卒業後、厚生省関東信越地区麻薬取締官事務所に奉職。数々の事件を手がけ、伝説の麻薬取締官の名をほしいままにする。著書に「ガサ!麻薬Gメン捜査ドキュメント」(徳間書店)、「白い粉の誘惑~麻薬Gメン捕物帖~」(宝島SUGOI文庫)など。
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