社会

被災地「偽ボランティア」の巧み話術

 岩手、宮城、福島の主要被災3県では、津波から生き延びた被災者が仮設住宅などで暮らしながら生活再建を模索している。今、その被災者を狙う“墓石詐欺事件”がひそかに起きている。被害者の一人が匿名を条件に被害実態を語ってくれた。

「震災以来、さまざまな人の思いもかけない善意に助けられたせいか、自分も人を疑うことを忘れてしまっていました‥‥」

 そう悔恨の念を漏らすのは、宮城県沿岸部の自治体に住む60代後半の女性Aさんだ。

 5年前に夫を亡くし、1人娘は結婚して県外在住。震災発生当時は1人暮らしだった。自宅は津波により、基礎以外はなくなり、もちろん家財は一つも残らなかった。今は仮設住宅で暮らす。

 彼女が詐欺被害にあったのは昨年秋のことだった。関東地方から来たボランティアグループが仮設住宅で炊き出しをしていた時のこと。炊き出しの豚汁を持って1人の青年が訪ねてきたことがきっかけだった。

 ボランティアグループのメンバーだと思って仮設住宅に招き入れたAさんは、東京から来たという物腰柔らかな青年に好感を持ち、発災時からそれまでのことを問わず語りのように話した。真剣そうに耳を傾けた青年は話を聞き終えると、

「とにかくお体に気をつけてください。また来ますから」

 と言って、Aさん宅をあとにした。

 ここまではよくある話だが、その青年は約半月後に再びAさんを訪ねてやって来た。

「前回、一方的に自分のことばかり話したので、悪かったという気持ちもありました。それに『また来ます』と言う人は多いけど、本当に再訪する人は少ないので妙にうれしくて。でもそれが運の尽きだったんでしょうね」(Aさん)

 県内の別の場所にボランティアに来た帰りだといった青年は、開口一番に、

「この間お話ししていたお墓の件ですけど‥‥」

 と切り出した。

 Aさんは震災で近くの寺院にあった先祖代々の墓も津波で墓石が倒されて、地中にあった納骨堂内の遺骨の一部も流出。震災後、納骨堂内に入り込んだ泥を自力でかき出し、拾い集めた遺骨を親戚宅に預けていた。寺院も全壊し、お墓の再建の見通しはなかった。前回、青年に会った時、そんな話もしていたのだ。

 青年いわく、北関東にAさん宅の菩提寺と同じ宗派で自分が知り合いの寺院があり、お墓がない東北の被災者が抱えている遺骨をお墓の再建まで最大5年預かっているという。無償ではないが、費用は供養料も含め年間10万円ほど。

 たまたま、青年が話す寺院の場所が娘の嫁ぎ先に近く、菩提寺再建の見込みもなかったことから、Aさんは、

「とりあえず1年でもいいから預かってほしい」

 と、反射的に話に飛びついた。

 すると青年は、その日の東京に帰る途中、寺院に立ち寄り、Aさんの先祖代々の遺骨を預かる申し込みを行うと言いだした。しかも、1年分の費用はとりあえず自分がいったん立て替えようとまで申し出てくれた。

「まさか立て替えまでさせるわけにはいかないので慌てて10万円を渡しました」

 青年はメモ用紙に寺院名と住所、自分の名前と携帯番号を書いてAさんに手渡し、Aさんの携帯番号を尋ねてメモすると、

「明日にでもこちらからご連絡します」

 と言って帰っていった。

 ところが、1週間たっても音さたもない。不審に思ってメモに書かれた青年の携帯番号に電話をかけると、女性が応答に出た。青年の名前を出しても知らないの一点張り。さらに娘の協力も得て調べたところ、青年が言っていた北関東のお寺そのものが存在しないこともわかった。

 ちなみに仮設住宅の自治会関係者に炊き出しに来たボランティアグループに連絡を取ってもらったが、Aさんが会った青年らしき該当者はいなかったという。どうやら被災者を装って炊き出しをもらい、それを持って今度はボランティアを装ってAさん宅を訪ねたらしい。Aさんの住む町の役場職員はこう語る。

「同じ境遇の人が仮設住宅にまとまって住んでいるというわかりやすい構図のせいか、怪しいセールスマンが訪ねて来るという話はよく耳にします。ただ、被害者がいたとしても皆、周囲を気にして黙っているようで、噂話以上のことは表に出てこない」

 かくいうAさんも、娘以外には被害のことは話していないが、被害は紛れもない事実。その意味では、被災したうえに詐欺被害にあうという「泣きっ面に蜂」状態のAさんのケースは「氷山の一角」に過ぎないのかもしれない。

カテゴリー: 社会   タグ: , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「メジャーでは通用しない」藤浪晋太郎に日本ハム・新庄剛志監督「獲得に虎視眈々」
2
不調の阪神タイガースにのしかかる「4人のFA選手」移籍流出問題!大山悠輔が「関西の水が合わない」
3
2軍暮らしに急展開!楽天・田中将大⇔中日・ビシエド「電撃トレード再燃」の舞台裏
4
新庄監督の「狙い」はココに!1軍昇格の日本ハム・清宮幸太郎は「巨人・オコエ瑠偉」になれるか
5
【鉄道】新型車両導入に「嫌な予感しかしない」東武野田線が冷遇される「不穏な未来」