社会

アウトローも変心させた「仏教の名言」(4)転職したいと思ったら…

 向谷氏は、僧籍を持つ前の50歳の時に地域の人の推薦を受けて保護司を引き受け、少年から60代以上のヤクザまでさまざまな人間に出会ってきた。

「その中で感じたのは、ヤクザでも暴走族でも、自分でアタマをとったことのある人間は、必ず刑務所を出てから、それを続けるにしろ再就職するにしろ、それなりにうまくやっていける。『独生独死独去来』の覚悟を持って、自分がはいずり回り、全て自分で引き受けていくという覚悟のある人間でなければ、うまくいかない」

 道心の中に衣食有り、衣食の中に道心無し(最澄)

「志を貫けば、日々の糧がついてくる──こういう仕事に就きたい、転職したいと思う時に不安を抱くのが人間ですが、道を究めようとする心があれば、おのずと衣食はついてくるということです。週刊誌の記者時代にある先輩がいましたが、有能な彼はやがて、フリーライターとして独立したものの、食うために居酒屋のアルバイトをしていました。それがやがて、ライターの仕事より生活のためのアルバイトのほうの比重が高くなっていった。つまり衣食のことを先に考えると志は挫折してしまうのです。私自身もこうして物を書いたりする仕事をやるには、さまざまな迷いがあったわけですが、好きなことをやるのに迷っていては、結果としてメシも食えなくなると知ったのです。サラリーマンでも、営業なら営業のノウハウを確立するという志を持って、嫌々ながらに仕事をするのじゃなく『天職』と思ってやっていく先に志がくっきりと見えてくるはずです。仏教は、今を考えるものです。『今、今、今』の連続が仏教の基本的な考え方ということも言えます。未来は、未だ来たらざるものと書きますが、過去も過ぎてしまって手の届かないもの。だから今をどう生きるかが大事なんだということです」

 その具体的な名句・名言をあげてもらおう。

 明日ありと思う心のあだ桜、夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは(親鸞)

「明日をアテにせず、今日一日を悔いなく生きろ──これがまさしく、今を生きる言葉。浄土真宗の開祖である親鸞が、9歳の時に幼くして両親を亡くし、得度(出家)するため中務(なかつかさ)省という役所の許可をもらい剃髪する時のこと。日も暮れたので明日にしようという先達の言葉に、明日はどうなるかわからない、夜に嵐が吹いて桜は散ってしまうかもしれないと、今すぐに儀式をしてほしいという思いを歌に託したものと言われています。『明日はないよ』と言っているのです」

 喫茶去(きっさこ)(趙州/じょうしゅう)

 ──人生の不条理を無心で受け容れよ──

 向谷氏の本に、ヤクザ稼業に足を踏み入れたばかりの新人ヤクザに対して、ある組の幹部が「オレたちゃ、今日は無事でも明日はわからねぇ。ヤクザは今日のことだけ考えてりゃいいんだ」と、この言葉を贈ったエピソードが紹介されている。

 唐代の禅僧である趙州が、訪ねてきた誰に対しても「まずはお茶をお飲み」とお茶を勧めた。人生は思うようになかなかいかない不条理なもの、そこで無心にお茶を飲み、明日のことは思い煩わず、今のことだけを考え無心に生きる、というふうに割り切ること。「オレはこのままでいいのか」と悩んでいたその新人は、迷いがふっ切れたという。

「今を大事にしないから、明日にいいことがあるんじゃないかと青い鳥を探して歩く、甘い期待をしてしまうんです。『今、今、今』の集大成、連続が人生であって、今をどうするかということに集中することが大事だと学んだんです」

 定年を間近に控えたり、年金生活に入るといった時期になると、年金がどうなるとか、経済的な生活設計をどうするか、という近い未来のことで思い悩む人も多いだろう。

「それもまた何かをアテにする考え方です。自分は生涯現役で働くのだ、年金とかそういうものに頼らないんだという気持ちをまず持つことだと思います。例えば電車に乗った時に座りたいと思うから、腹が立ったりイライラしたりする。初めから座らないと思っていれば、立っていたってなんともないわけです。将来の年金をアテにするから、気を揉むことになる。年金が入ってくるのなら、それはそれでいいことだけど、自分は自分で生涯働くんだという腹のくくり方も必要だと思うのです。人間には煩悩があるから当然、不安は消えないけれど、その飼い慣らし方を知ること。だから明日を思い患うのは、意味がないと知るべき」

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