芸能
Posted on 2012年12月26日 10:00

深作欣二作品で川谷拓三は撮影中に死にかけた

2012年12月26日 10:00

「おい、八名! お前、相手が北大路欣也だからって手加減しているのか!」

 深作の怒号が響いたのはシリーズ第2弾「仁義なき戦い 広島死闘篇」(73年/東映)の冒頭のロケである。東映フライヤーズの投手から俳優に転向し、後に「悪役商会」を束ねる八名信夫が怒りの矛先となった。

 北大路は第2作の事実上の主役である山中正治を演じていた。食堂で無銭飲食をはたらき、大友勝利(千葉真一)が率いる愚連隊の大友組から壮絶なリンチを受ける。八名は、その口火を切る役を演じていた。

「まず、欣也ちゃんの頭から汁モノの丼メシをかけるんだ。それを監督は『遠慮してる』って怒るんだけど、熱々の丼だったんだぜ。撮り直しでは『もっと中身を熱くしろ』って言うから、すごい監督だなあと思ったよ」

 八名は丼のふちに親指をはさみ、北大路が頭にケガをしないよう配慮しながらも、1回目よりは迫力を増して「深作好みのリアルさ」を見せる。

 同作ではさらに、チンピラ役の川谷拓三をリンチする場面でも衝撃を受けた。大友組の面々がボートを走らせ、両手首をロープで縛った川谷を海面で引っ張っていく‥‥はずだった。

「ところが拓ボンの体がクルクルッと回って、海の中に潜っちゃったんだよ。慌てて救命具を投げたけど、水もたくさん飲んでいて失神状態。皆で引き上げて心臓マッサージして回復したけどね。ただ、ああした命がけのシーンで拓ボンは認められていったんだよな」

 八名もまた、プロ野球出身の俊敏な動きと、182センチの長身は深作に気に入られた。シリーズ全5作のうち3作に名をつらね、脇役ながら個性を発揮する。

 八名は深作が求めるリアリティには、何度となく驚嘆させられた。例えば、ヤクザの宴会シーン。朝の9時から撮影は続いているが、深作のOKが出ない。

「やっぱりダメだ。匂いが伝わってこない」

 深作は酒を用意させ、飲めない役者も含めて2時間ほど「本物の宴会」を決行。それからカメラを回したという。

 酒がらみでは、5作目の「仁義なき戦い 完結篇」(74年/東映)における宍戸錠の演技も常識を超えていた。敵対していた市岡輝吉(松方弘樹)と料亭のテーブルで対峙している。

〈市岡、おんどれ、盃ゆうもんを軽う見とりゃせんか。牛のクソにも段々があるんで。おどれとわしは五寸かい!〉

 激昂したセリフのままに宍戸は、左腕でテーブルの小皿やグラスを払いのける。その奥に八名たちが座っていたが、この場面は語り草となった。

「宍戸さんの左腕の静脈がばっさり切れちゃったんだけど、酒ばかり飲んでいるから血が止まらないんだよ。松方の横にいた女優が出血を見て失神したんだけど、それでも監督はカットをかけない。俺が宍戸さんの手を押さえて、ようやく撮影が終わったくらいだった」

 八名が最後に深作に呼ばれたのは、92年公開の「いつかギラギラする日」(松竹)だった。仁義シリーズの山守組長(金子信雄)のような「コミカルな親分」というリクエストだった。すでに深作は還暦を超えていたが、それでも、車が海に飛び込むような派手なアクションを多用するのは、あの日のままだと思った。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    芸能
    2026年04月11日 12:00

    2028年のNHK大河ドラマが「ジョン万」であることが発表された。ジョン万次郎こと中濱万次郞の波乱に満ちた人生の物語で、NHKのサイトから一部抜粋すると「19世紀の日米と太平洋を舞台に、命がけのサバイバルの連続と遥かなる再会のロマンを描く。...

    記事全文を読む→
    エンタメ
    2026年04月16日 11:30

    昨年8月、栃木工場でミッドナイトパープルの最後の一台が、静かにラインを離れた。それがR35 GT-Rの終わりだった。そしてこの4月14日、日産のエスピノーサCEOが長期ビジョン発表会の場で、記者の質問に答えた。「GT-Rは出す」いつ、どんな...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    スポーツ
    2026年04月16日 15:00

    4月15日に等々力球場(神奈川県川崎市)で開催された東都大学野球2部リーグ・日本大学対拓殖大学2回戦。スタンドの大学関係者やファンの視線をひときわ集めていたのが、日大の7番ファーストでスタメン出場していた村上慶太である。今季からホワイトソッ...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/4/14発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク