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齋藤孝「脱・リア王症候群」超入門(1)うわべの言葉で猜疑心の塊に

「中年のおじさんというのは、普通にしていても黙っているだけで不機嫌に見えてしまう存在だ」と言うのは、テレビ番組のコメンテーターなどでおなじみの齋藤孝明治大学教授。これを放置しておくと、「リア王症候群(シンドローム)」に陥り、最終的にはとんでもない不幸に見舞われることになるというのだが‥‥。

 人間関係を高速道路に例えると、不機嫌な人が1人いると大渋滞が起こって人や情報の行き来が止まってしまうのです。

 45歳以降の中年男性になると、本人はごく普通にしていても、周囲からは不機嫌でなんか怒っているように見えてしまう。しかも本格的に不機嫌になりやすい年齢でもあるという、中高年男性の“悲劇”を自覚すべきなんです。中高年男性はこの無自覚な不機嫌によって、嫌われたり、疎んじられ、セクハラやパワハラ容疑から、さらに思いもかけない不幸を招くことになりかねないのです。

 W・シェークスピアの4大悲劇のひとつ『リア王』は、『ハムレット』『オセロー』『マクベス』などと並び称せられる名作ですから、読者の皆さんも、題名くらいは知っているでしょう。『リア王』は簡単に言えば、そういう老人の悲劇を描いたものです。

 かつては偉大な王といわれたリア王は、引退を考えて3人の娘たちに家督を譲ろうとしますが、「お前たちのうち、誰がこの父の事を思うているか、それを知りたい」と問い、リア王に気持ちのいい言葉を言った上の2人の娘にいい土地を譲ろうとします。ところが、末娘のコーディーリアは姉たちのように上手く気持ちを言い表すことができず、「私はお父様を愛しています」というだけが精一杯。するとリア王は「なんだ、少しは言葉を繕え。さもないとせっかくの幸運が台無しだぞ」なんてキレてしまいます。つまり、うわべの言葉に騙されやすくなり、正常な判断力を失い、真実の言葉を言っている娘の言葉を信じられない猜疑心の塊になってしまうのです。そして最後には、みんなから嫌われ、落ちぶれて発狂、ついには、嵐の中をさまよってしまう孤独な老人、リア王の姿を描いた悲劇です。

 レストランなどで、ウェイトレスさんに対して、オレは客なんだというスタンスでキレてる中高年男性をしばしば見かけますが、「キレやすく」て「不機嫌」、「上から目線の尊大さ」などが加わったものを、私はリア王症候群と呼んでいます。これは現代の私たちにも通じる中高年、高齢者の“悲劇”なのです。

齋藤孝(さいとう・たかし):1960(昭和35)年、静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現職。2001年『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス)で新潮学芸賞受賞。同年『声に出して読みたい日本語』(草思社・毎日出版文化賞特別賞)がシリーズ260万部のベストセラーになり、日本語ブームに火をつけた。その後テレビのコメンテーターをはじめクイズ番組などに多数出演。著書の累計出版部数は1000万部を超え、近著に『大人の語彙力』『50歳からの孤独入門』などがある。

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