政治

歴代総理の胆力「池田勇人」(3)とてつもない「強運」の持ち主

 池田内閣が進めた「所得倍増計画」は、当初目標の10年を経ずして、昭和43(1968)年の7年目にして達成された。弾みのついた経済の高度成長は、次の佐藤(栄作)政権の中期に熟成を見、昭和48(1973)年秋の「オイル・ショック」まで続くことになる。

 池田内閣を支え続けた大蔵省の後輩二人の、なぜ「所得倍増計画」が成功したのかについて、こんな述懐がある。

「あの頃の日本の置かれた状況で、日本人が持つ知識に、労働、技術、貯蓄力をうまく活用していけば、10年間に実質所得が倍にならないはずがないという思いがあった。言うならば政治より経済、花より団子に国民の意識を振り向ける一つの契機になった政策だった」(池田内閣で外相、官房長官の大平正芳)

「(池田は)世間からは剛球投手と思われていた。しかし、たくらんで強引に推し進めたということでなく、一つは岸さんが退いて世の中が静かになり、一種の“おこり”が落ちたようなということか、スッと静かになった。だから、政治的な面ではフォロー・アップは必要ないというか、一種の虚無感みたいな状態だった。これが、池田さんがスッと所得倍増のほうへ入っていけ、そのまま走ることができたゆえんだ」(池田内閣で経済企画庁長官の宮沢喜一)

 振り返れば、池田勇人という人物は、とてつもない「強運」の持ち主だった。自ら抱えた不治の病とされた難病と妻の死、余儀なくされた大蔵省退官という人生のドン底から、奇跡の復活を果たしたからであった。その背景は、いくつか窺える。

 その最も大きな要因は、時の実力者だった吉田茂総理大臣との出会いであった。

 池田は大蔵省復職のチャンスを得ると、ナニクソ精神で徹底的に「税」を勉強、大蔵省に「池田あり」で知られるとともに、“回り道組”にしては異例の主税局長から次官にのぼり詰めた。この能力に、吉田の目が止まったということだった。これに合わせ、吉田は役人にしては珍しく性格が豪放磊落、誰にも好かれる明るい性格を買ったようであった。

 ために、吉田は1年生代議士の池田を大蔵大臣に、大抜擢もし、自らの政権下では通産大臣、自民党政調会長・幹事長と、次々と要職に就けたのだった。当時、周囲の羨望、嫉妬を交えて、池田についた異名は「出世魚」、ブリという魚がワカシ、イナダ、ワラサと生育の中で呼び名を変え、やがて高級魚のブリに成長することになぞらえたものだった。

 こうした「出世魚」は勢いに乗じた形で天下取りまで目指した。ために、日本政界初の「宏池会」と名付けた派閥を結成、吉田茂の「保守本流」政治の後継者たらんとの意気込みに燃えるのだった。ちなみに、やはり吉田がかわいがった佐藤栄作も「周山会」と名乗る派閥を結成、「保守本流」のバトンを受け継ぐ者として「ポスト池田」への意欲を高めたものである。

 そうした池田の野望は、前任の岸信介総理の退陣を受けて実現した。政権を担った池田は、茶目っ気たっぷり、開き直りと自信を示して言ったものだ。

「私をおいて総理をやる人物はいないのではないか」

 しかし、その政権は、当初、短命視もされたものだが、結局4年3カ月をまっとうする長期政権となった。ところが、まさに好事魔多し、政権は突然、舞台の暗転を迎えることになる。

池田勇人の略歴

明治32(1899)年12月3日、広島県生まれ。京都帝国大学法学部卒業後、大蔵省入省。難病を得て休職。復職後、大蔵次官。議員1年生にして、蔵相。昭和35年7月第一次内閣組織。総理就任時59歳。昭和40(1965)年8月13日、ガンのため死去。享年65。

総理大臣歴:第58~60代 1960年7月19日~1964年11月9日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

カテゴリー: 政治   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「致死量」井上清華アナの猛烈労働を止めない「局次長」西山喜久恵に怒りの声
2
完熟フレッシュ・池田レイラが日大芸術学部を1年で退学したのは…
3
巨人の捕手「大城卓三と小林誠司」どっちが「偏ったリード」か…大久保博元が断言
4
京都「会館」飲食店でついに値上げが始まったのは「他県から来る日本人のせい」
5
フジテレビ井上清華「早朝地震報道で恥ずかしい連呼」をナゼ誰も注意しない?